中国経済の歴史と先物市場の今【中】

2023-11-10
天安門広場

天安門広場

 農政調査委員会が10月23日に開催した第6回農産物市場問題研究会では、中国の農業事業に精通したジャーナリストの山口亮子氏が、「大連の先物市場について」と題して講演した(第3247号既報、本号は続き)。中国の大連商品取引所(DCE)では20を超える農産物商品が上場されており、2019年8月にはジャポニカ米が上場された。もともと中国におけるコメ先物は1993年、上海粮油商品交易所(現・上海先物取引所)で上場されたが、供給不足により度々急騰を招き廃止となった。本号では山口氏の講演内容の続編を掲載し、なぜ大連でコメが上場された背景などを解説する。


 鄭州で主食の先物取引が満を持して復活したが、場所は消費地ではあるが産地ではない。河南省は乾燥しており、もともと米の産地ではなく、人口は多い。それもあって取引は伸びなかったようだ。
 最終的に2019年8月、日本ではコメ先物の本上場が認められず、試験上場の延長が決まった時に大連ではジャポニカ米が上場を果たしている。日本では通常、新規商品の上場時には鐘を鳴らすのが一般的だが、中国ではそれが銅鑼になる。
 大連で上場することが非常に意味があり、生産地でもあり消費地でもあるという要の場所となっている。鄭州とは上場の意味合いが違っている。大連でジャポニカ米が上場できた理由は、上海で上場した頃と比べ、①コメの規格や検査の整備が進んだ、②受渡量が十分確保できる、③十分な競争がある、④市場かが進み価格変動の波が落ち着いている―ことが大きいだろう。
 中国で先物市場が必要とされる理由として、まずは農民、コメ産業のリスク回避が挙げられる。コメに関連した日本との相違点に、輸送日数の長さがある。基本的に中国のジャポニカ米は北で作って南へ運ぶ流れで、東北三省(遼寧省、黒竜江省、吉林省)で生産したジャポニカ米を南の消費地に運んでいくので、船による輸送が多い関係で場合によっては2カ月ほどかかる。つまり買った時には高かったコメの値段が着いた頃には安くなっているというリスクがある。こうしたリスクは現代の日本にはない。
 また2つ目の理由に、現物取引を安定させるためにも先物取引が必要だとの認識で、現物と先物を両輪に据えている。これは日本にもいえることで、日本の場合現物市場がスタート(※みらい米市場が10月16日に開設)したが、同市場を補完する意味でも日本で先物市場が臨まれている状態ではないかと思う。
 3つ目の理由としては、上場商品の多様化がある。中国では農産物だけでもかなりの種類が先物市場に上場されており、大連のジャポニカ米は当時大連の農産物市場として24番目の商品だった。例えばトウモロコシ、でんぷん、大豆は2種類(黄大豆1号、同2号)あり、豆粕、豆油、パーム油なども扱っている。
 ジャポニカ米に関していうと、中国のコメ市場は完全に市場化されておらず、中国政府の保護がまだかなり強い品目である。
 今もコメを中国政府が買い付ける仕組みは残っており、これは価格維持政策である。日本でいうと最低買付け価格の保証である。コメが供給過剰に陥った場合に政府が決めた最低価格で買い上げることで、農家の収入を保証する制度だ。2023年の場合だと、ジャポニカ米で50kgで131元(≒2,683円)が買取価格となる。年によって買い上げ数量は変わるが、ジャポニカ米の場合はだいたい3,000万tほどで、生産量の3分の1から半数ほどが政府に買い上げられていることになる。だが買い上げた価格ではなかなか売れず、かなりの量をエサ米に回している実態がある。

(次回へ続く)

⇒【NEXT】中国経済の歴史と先物市場の今【下】

⇐【BACK】中国経済の歴史と先物市場の今【上】

(Futures Tribune 2023年11月7日発行・第3250号掲載)
FUTURES COLUMNへ戻る