中国経済の歴史と先物市場の今【下】

2024-04-05
天安門広場

天安門広場

 農政調査委員会が10月23日に開催した第6回農産物市場問題研究会では、中国の農業事業に精通したジャーナリストの山口亮子氏が、「大連の先物市場について」と題して講演した。中国の大連商品取引所(DCE)では20を超える農産物商品が上場されており、2019年8月にはジャポニカ米が上場された。もともと中国では農家の金融知識が不足しており、保険会社がリスクを負う形で「保険+先物」という文言が8年連続で中国国内の重要文書に記載され続けている。今回は後編として、保険や三農問題に焦点を当てる。


 中国でのコメ先物の仕組みについて説明を続ける。まずは前述したように農民の収入を上げるためにコメの先物をやるのだが、先物商品を農家が理解できるかというと、中国の場合はかなり無理があるというのが大きな問題としてあった。
 先物商品が保険業界と連携して進背景がそこにある。農家自体の金融に対する知識のなさにより、今の仕組みができあがった。具体的には保険会社から保険を買うことで、本来農家が背負っていたリスクを保険会社に背負わせることで、その保険会社は先物会社、先物取引の仲介会社にそこから先物の権利を買うことで農民から肩がわりしているリスクを先物の仲介業者に負わせる構図になる。先物仲介業者がまず先物市場を使って、再保険の形で負ってるリスクをそこで解消しようというような仕組み になっている。
 元々大連の商品取引所がコメ先物を上場するよりも前にトウモロコシと大豆の穀物で先物取引を試して高い効果を得られた成功体験がある。ただそうは言っても農家にそのまま先物商品を買ってもらうのは難しいので、先物に保険を組み合わせた形は大体2014年ぐらいから検討されるようになり、どんどん増えている。農家から保険会社、さらにその先物の仲介業者を経て先物市場にリスクが付け替えられるという仕組みになっている。
 再びここで三農問題がクローズアップされるが、①農業生産が低迷すること、②農家所得が増えないこと、③農村の疲弊―という負の連鎖が改革解放以降に進んでしまった。沿岸部が順調に経済発展を続ける一方で、農村部はどんどん後に置いていかれてしまい、このままでは共産党がなぜ政権を取っているかわからない状態に今なっている。その解消のために、保険プラス先物が期待されている。農村における貧困削減は習近平政権にとってかなり大事な課題になっており、一応2021年に貧困層をなくしたと対外的に宣言をして、日本でも報道されたが、未だに農村部の貧困はかなり深刻なものがあるので、保険プラス先物を推進しているところだ。この「保険プラス先物」という言葉は8年連続で中国共産党の重要文書に掲載されている。
 中国共産党が1番年初に出す文書が「1号文件」と言われており、重要な政策決定を載せるものだが、2004年からずっと農業によって独占されている。背景としては1997年から2003年にかけて農民の収入の伸び率がいずれの年も5%に達しなかったことがある。
 都市住民の収入の伸び率に比べると半分以下なので、共産党が危機意識を持って三農問題に対処する方針を打ち出した結果である。2016年からは保険プラス先物についても言及されるようになり、以来8年続いているという状態だ。
 ここからは大連の商品に話を戻す。コメ先物の商品設計について日本との相違点を4つ挙げる。まず「規模感」で、取扱量が1枚10tという規模感の大きさである。次に「単一商品」で、米の産地品種銘柄による区分けをせず、東北米という括りで1つの商品として扱っている。3つ目の特徴がこれまでに話した中国共産党にとって農家の収益を上げるっていうことが大事になっているという政治的な背景だ。4つ目は保険商品に組み合わせることで農家が手に取りやすいような形にしたことだ。
 中国は世界のジャポニカ米の約3分の1を消費しており、中国国内のコメ生産量全体の30%がジャポニカ米である。基本的に所得が上がると主食はジャポニカ米に切り替わっていくので、今後も中国ではジャポニカ米の消費は上がっていくだろう。年間の生産量は大体7,900万tほどで推移している。用途については飼料用餌用が元々5%だったが、コメ消費の鈍化を受けて今20%くらいまで上がってきている。
 ジャポニカ米の主産地は中国国内の東北三省が最も大きく、あとは沿海部南のエリアだが、南の方は産地消費に回るので国内全域に回るのは北部のコメである。消費地のメインは沿海部だが、量を問わなければジャコニカ米の消費量は全国に広がっている。
 大連の取引所にジャポニカ米が上場されたのは2019年8月だが、取引量はかなり低調だった。上場された8月は220万tほど取引量があったが、ご祝儀がてらの売買だったようで、その後急減していった。このまま鳴かず飛ばずに終わるのかと思っていたら、2020年の2月くらいから取扱量が跳ね上がった。これはちょうどコロナの影響で、同月に前月比で600万tほど増え、以後数百万tの水準を継続している状況だ。
 これは新型コロナの初期にベトナムのようなコメの輸出国が現物を囲い込むのではないかという予測が流れたこともあり、買い注文が増えたようだ。リスクヘッジに先物が使えることと、投機対象としてコメが魅力ある商品だという認識が広がったことがある。
 中国の先物の特徴として取引コードの存在がある。単一商品に対しコード「rr」が1つ割り当てられるため、例えば2023年の10月が限月であれば「rr2310」という。これがコードに該当する1つの商品しかないわけで、産地や品質によって差が生じてくる場合は差額を足し引きするという設計になっている。
 現物の引渡しの方法については日本国内とそれほど変わらないが、現地の倉庫での引き渡しを伴う実物取引などいくつか種類がある。売り手と買い手が合意したら限月が来ていなくても現物米とお金を取り替えてもいいとか、あとは限月から1カ月の間で双方で取り決めに従って売買してもいい、あとは取引終了後に規定に従って決済するといったようなものだ。
 受渡し地点は基本的に東北三省のみになっているが、将来的には江蘇省も受渡し地点に入れる可能性が高い。江蘇省あたりで作られるジャポニカ米は品質水準がかなり異なってくるので同じ体系に組み入れるのは難しいが、将来的にそれらも含め取扱いの範囲を広げ商品を拡大させることを、大連の先物取引所は 考えているようだ。

(完)

⇐【BACK】中国経済の歴史と先物市場の今【中】

(Futures Tribune 2023年11月14日発行・第3252号掲載)
FUTURES COLUMNへ戻る