10.19ブラックマンデー、脚光浴びた商品ファンド【上】

2024-10-15

 米国を中心に世界中の株価暴落を引き起こしたいわゆる「ブラックマンデー」は、1987年(昭和62)10月19日に発生した。まもなく27年となる。同日のニューヨーク株式市場ではダウ30種平均が前週末の終値から508ドルの大幅下落となり、世界同時株安の連鎖を引き起こす契機となった。一方でブラックマンデーは商品ファンドビジネスにとっては追い風となった。株価大暴落の状況下で株式の運用利回りが5%ほどだったのに対し、商品ファンドは61%という驚異的な運用成績を出して一気に投資家の関心を集めることとなった。


 1987年当時はプラザ合意から2年が経過していたが、米金融当局の予想以上にドル安が進行していた。これによりアメリカの金利引き上げ観測が持ち上がった。この背景には西ドイツが自国通貨マルクの金利を上げたことに対しアメリカのジェイムズ・ベーカー財務長官が非難したことも要因とされている。
 西ドイツのマルクは当時上昇していたが、自国の景気加熱によるインフレ懸念の沈静化を優先したのである。戦時中にハイパーインフレを経験したドイツではインフレに対する警戒感が非常に大きい。こうしたことからうまく機能していたG5の為替協調政策に対する信頼感が損なわれ、アメリカもドルを防衛するために大幅な金利引き上げを実行するのではないかと見られていたのである。金利引上げは、急上昇を続けていた株式市場にとってはマイナスに作用する。
 さらに当時流行していた「LBO(Leveraged Buy Out)」も株価のマイナス要因とされた。LBOは買収先の資産を担保にした借り入れで企業買収を行うことで、これを規制しようとする動きがあった。株式市場では企業買収によって市場から発行株式が吸い上げられることによる株式の需給改善も好材料と判断されており、LBO抑制の動きもやはりマイナスに作用したのである。
 これらの要因が絡み合いブラックマンデーの前週、10月14日の水曜日から16日の金曜日にかけて3日続落し、その下げ率もすでに10.79%と二桁に達していたのである。そこからブラックマンデーにつながっていく。
 ブラックマンデーによるアメリカ国内の商品先物市場の混乱ぶりを、当時の本紙は第775号でシカゴからの現地レポートとして次のように報じている。見出しは「ブラックマンデー協騒曲、塗り変えられるか業界地図」、本文は当時のものを引用する。


【シカゴ】

 ダウ平均が508.32ポイントという記録的な暴落で1,738.82まで下がった10月19日は、米国商品先物業界にとってもまさに「ブラックマンデー」となった。
 最大の影響を受けたシカゴマーカンタイル取引所(CME)のS&P500株価指数先物市場の1日の下げ幅は約80ドル、その評価損は1枚当たりの証拠金1万ドルに対し実に4万ドル。ローカルズ、FCMの中には億単位の損失補填と翌20日から課せられた追証の資金手当てのために、会員権を投げ売りする者が続出した。
 市場はその後ダウの反騰などで平穏を取り戻しつつあるが、NYMEX、CSCEなどの市場で大手ファンド機関店として名高いC&D(シンディ&デニス)社が10日間の取引停止処分となったほか、何社かのFCMに倒産説が流れるなど、業界内部の後始末はまだこれからだ。

「資金不安」広がる

 この日、CBOT会員権価格は前週末比7万7,000ドル安の37万5,000ドルまで急落した。同年8月30日の最高値55万ドルからみると実に17万5,000ドルの下落である。
 ブラックマンデーの日、CBOT会員権価格は前週末比」7万7,000ドル安の37万4,500ドルまで急落した。8月30日の最高値からみると実に17万5,000ドルの下落であった。
 急落の原因はこの朝、MMI(メジャー・マーケット・インデックス)市場に「追証がかかる」との噂が流れ、資金ショートを恐れたメンバーたちが「バーゲンセールに出た」(CBOT会員部)ため。事実、CBOTはこの日、20日以降のMMIの本証拠金を1枚7,000ドル(旧4,500ドル)、追証拠金を同5,000ドル(旧3,000ドル)に引き上げると発表し、さらに下落を招いたのだが、こうした会員権の投げ売りは、CBOTと同様にこの日前週末比7万8,000ドルのダウンを示したCME会員価格の急落と併せ、予想外に資金力の薄い米国ブローカーの実態を垣間見せる出来事だった。
 そして各FCMのこうした資金不足を決定づけたのが、大手ファンド機関店として日本でも名を知られているC&D社の取引停止処分だ。
 C&D社は現在、大手FCMであるD社のファンド資金を運用。一方でこれも大手FCMのH社と資金面での提携関係にあるが、20日午後、突然NYMEXなどで取引停止。市場関係者を驚かせたと同時に、D、H両社の今後の去就についても様々な憶測を呼んでいる。

吸収合併中心に

 今回の相場でささやかれた最大の損失額は「FCM1社で50億ドル」(CBOT関係者)。ファンドマネーを運用するCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー)の中には「5~6億ドル損を出した」という者も少なくない。
 これらの清算およひ市場管理は、「信用維持のため吸収合併が中心となるだろう」(大手FCM関係者)との見方が強い。今回の相場で指摘されたプログラム取引の是非、「株がダメなら商品へなどという楽観が許される状態じゃない」(大手FCMブローカー)という投機心理の冷え込みなど、米国先物業界は市場人気そのものに問題を抱えながらの難しい整理を求められている。(引用終わり)

 (以下、続く)
(Futures Tribune 2024年10月8日発行・第3316号掲載)
FUTURES COLUMNへ戻る