世界経済のバブル事件史~チューリップバブルからリーマンショックまで【下】
2024-06-20【アメリカ・ITバブル(2000頃)】
前述した1985年9月のプラザ合意以後、狙いどおり大幅なドル安に傾いたアメリカは、90年代後半、クリントン政権下で金融帝国の方向に舵を切り、これまでと一転してドル高政策に向かった。この背景にはIT革命の下地があった。ウォール街は変動相場制とIT技術の組み合わせにより、面白いように利益が得られたことで、90年代に入ると金融を急激に膨張させていた。こうした動きに沿って、アメリカは世界中から資金を集めるため、高金利政策に転換し、金融主導によるアメリカ経済の再生が論じられていった。
民主党はもともと労働者の利益を代弁する政党であったが、クリントン政権下においてカネでカネを釣るカジノ資本主義に鞍替えし、アメリカ経済が地道なモノづくりを捨て金融国家に転じた。
結果、金融帝国化の裏で自動車や鉄鋼などの工場が労働力の安いアジアに大規模移転し始め、21世紀に入るとIT産業も中国に集中した。こうした中で2000年には、アメリカにおける企業収益の45%を金融部門が占めたのに対し、製造部門はわずか5%にまで落ち込んでいる。
また、ドルと相場を固定するドルペッグ制を敷いていたアジア諸国は、アメリカのドル高政策により、その後未曾有の経済危機に陥ることになる。そもそもドルペッグ制は、海外資金の呼び込みやインフレ防止を目的に実施するもので、ドル安の時期は順調に作用していたが、ドル高にぶれたことで自国通貨も高騰し、急激な輸出不振に陥った。そしてドル高に連れて実態経済以上に高くなっていたタイバーツ、韓国ウォンなどがヘッジファンドに狙われ、97年「アジア通貨危機」へと深刻化していった。アジア通貨危機により景気の落ち込みでロシアの石油が売れなくなり、大きな収入源だった石油輸出に係る税収が伸びず、石油価格の下落も伴いロシアの財政は極めて厳しい状況だった。
こうした中、98年8月17日にロシアは突如デフォルトし、アメリカ最大のヘッジファンド「LTCM」も破綻した。後始末の対応を間違えれば世界恐慌にもなりかねない事態だったが、米連邦準備制度理事会(FRB)はすぐに金利引き下げを実施し、ドル安への転換がなされた。
この時、ドル安に移行する過程でアメリカの金融市場でダブついていたドルは、成長を過剰に期待されていたIT産業への投資に集中した。結果的にIT産業の株価を実勢以上に押し上げるITバブルが発生した。
FRBはバブル発生とみて即座に金利を引き上げた。だが01年、IT産業の上場が多いナスダックの総合指数が暴落し、今度は6.5%の金利を一気に1%まで引き下げるなど、インフレ政策に転じた。
これがさらに余剰資金を生み出し、今度は不動産に集中して住宅バブルが懸念されるようになると、04年から06年にかけて政策金利を5.25%まで上昇させた。
当時のFRB議長だったグリーンスパン氏はこのように金利の上げ下げで景気の舵取りを図ったが、世界中が振り回されたばかりか、こうした動きが後のリーマンショックに繋がっていく。
【アメリカ・証券バブル(サブプライムローン)(2008)】
2000年代のFRBによる長期のインフレ政策により、不動産ブームが加熱し、特に低所得者層が住宅ローンを組み不動産を購入する動きが活発化した。バブルが懸念され金利を上げても、抑制効果がそれほどなかった。
背景にはEUの銀行がアメリカ国債や住宅ローン関連の証券を大量に買っていたことで、住宅購入資金を調達しやすい状況が10年も継続していた環境が大きい。このため転売で利益を上げようとする不動産投資が熱を帯び、特に低所得者向けのサブプライムローンが、借り手の返済能力を無視して大量に貸し出されていた。貸し手の金融業者は焦げ付く可能性の高いこれらのローンを投資銀行に売却し、投資銀行は個別住宅ローンと混ぜ合わせてコマ切れにし、さらに国債など安定した債券と混ぜ合わせて不動産担保証券(MBS)に変容させた。
不動産価格の上昇が追い風となり、格付け会社もこれらの証券にAAAの評価を与えたりして世界中に販売されていった。その後07年に入るとサブプライムローンの焦げ付きが大量に表面化し、不信が一気に広がったことで投げ売り、バブルの崩壊という一連の流れを辿った。
ただ、今回の場合は破綻した住宅ローンがどの証券にどの程度組み込まれているかなど組成が複雑でわからず、業者は争って投売りするしかなかったため証券化商品が一斉に大暴落し、影響は世界中に及んだ。この結果、08年9月にアメリカ4位の投資銀行リーマン・ブラザーズが約6,000億㌦(66兆円)の負債を抱えて倒産に至る。
結局サブプライムローンはレバレッジを効かせすぎていたことで傷を広げ、リーマンショックは複雑な金融工学で組成された証券バブルの、誰も予期しなかった形での総崩れであった。
<完>
(Futures Tribune 2017年11月17日発行・第2822号掲載)
リンク
©2022 Keizai Express Corp.