アメリカの夜間取引時間延長、日本の投資資金が流出危機へ

2026-08-17

JPX第1四半期655億円の大幅増、取引関連278億円

 日本取引所グループ(JPX)は28日、2027年3月期(2026年4月1日~27年3月31日)における第1四半期の決算概況を発表した。それによると営業収益は655億1,500万円(前年同期比50.8%増)、営業利益は437億1,600万円(同73.3%増)、四半期利益(親会社の所有者帰属)は295億6,700万円(同73.6%増)の大幅増益となった。取引関連収益が278億3,700万円(同60.4%増)となり活況を呈した。だが、取引所間の競争は激化の一途をたどっており、米英ともに夜間取引の時間延長を進めており、日本市場には暗雲が立ち込めていると警告する声も出ている。


規制当局との摩擦も厭わぬ「取引時間拡大」の果実

 米国の主要取引所と市場インフラが、12月6日を目標に「23時間・週5日」体制への移行準備を進めている。日曜夜から金曜夜まで市場を開き、月曜から木曜は毎日1時間の技術的停止を挟む設計である。
 株価情報を集約・配信するSecurities Information Processor(SIP)の稼働時間延長は、米証券取引委員会(SEC)の承認を得てテスト日程が公表され、清算を担うNational Securities Clearing. Corporation(NSCC)は6月末、日曜から金曜までの24時間・週5日清算を先行して本番稼働させた。取引所側もナスダック(4月10日)、Cboe EDGX(5月29日)が規則承認を取得し、NYSE Arca、新興の24Xも同日開始を目指す。規則・清算・データという制度的な骨格が、おおむね出揃った。
 英国も続く。ロンドン証券取引所(LSE)グループは7月21日、夜間市場「LSE24」の開設計画を発表した。26年末までに顧客テストを始め、規制承認を前提に27年上期から上場投資商品(ETP)を扱う。デリバティブでは動きがさらに速い。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は5月29日、週末の保守時間を挟みながら暗号資産先物・オプションを「24時間・週7日」体制へ移し、7月24日には小口の1オンス金先物で週末取引を始めた。初週末には約1万5,000枚が成立している。小口の10バレルWTI原油先物も自己認証手続きの後に上場を目指したが、米商品先物取引委員会(CFTC)が上場を差し止め、意見募集の期限を8月26日まで延長する異例の展開となった。
 もっとも、金と原油で対象となったのはいずれも個人投資家を意識した小口契約であり、伝統の100オンス金と1,000バレルWTIは週末取引の対象外である。
 規制当局との摩擦を伴ってでも時間拡大を取りにいく姿勢は、世界の取引所の競争力激化を物語っている。
 ただ米国のこうした光景は、2000年代初頭の国内商品先物市場に接していた層には、どこか既視感を覚える。
 かつて東京の商品市場は、金、ゴム、原油などで世界有数の流動性を誇った。その凋落は2005年、委託者勧誘規制の強化により始まったが、当時の市場構造に鑑みても来たる低迷は必然の流れであったといえるだろう。まず重要な材料が出る時間帯を海外が押さえ、価格発見の主導権が24時間動くニューヨークとロンドンに移る。東京は「海外で決まった価格への裁定の場」となり、寄り付きはギャップ埋めの作業と化した。値幅の妙味を失った市場から参加者が徐々に去り、やがて建玉と人材が海外と店頭に流出する。
 規制強化など固有の事情はあるにせよ、衰退を加速させた主要な起点のひとつが取引時間であったことは否定できない。ある国内取引所関係者は「金の取引は日本からなくなったのではない。個人はCFDへ、法人はCMEへ移った。原油も同じ道を辿っている」と指摘する。元CME駐日代表も「米国でいま起きていることは、日本ではすでに起きたことだ」。と語っている。
 翻って東京証券取引所の現物株取引は、24年11月の30分延長を経てなお、昼休みを挟む日中5時間半にとどまる。この延長についても、金融事情に詳しいある関係者は「決済の将来像を欠いたバッチ処理的な性格にとどまる」との厳しい評価を下している。
 もっとも、東証が閉じている間、国内株は値が止まるわけではない。海外の日経平均先物や日本株ETF、大阪取引所のナイト・セッション、そして東証上場株を扱う国内PTSが、その間も価格を刻んでいる。米国市場が常時取引可能(正確には取引23時間化)になれば、東証は夜間に形成された価格を追認する市場となる危険に加え、立会時間中に米国市場と正面から向き合う局面にも直面する。商品市場が歩んだ道の、最初の一歩が今年末には訪れる。


米夜間セッション、日本の日中取引がターゲット?

 ただ、日米他どこの市場でも夜間の板は薄い。示唆的なのは、米清算機関NSCCが夜間セッションに別建ての管理を敷いたことである。夜間取引には当初10億ドルの高額取引検証閾値を設け、専用のタグで夜間約定を識別することとした。
 夜間の取引でリスクが増大した会員には、追加証拠金を求める仕組みも備える。日中の流動性がない時間帯に清算保証を立てることは、日中とは別種のリスク問題だという設計思想である。これは夜間の薄商い、異常値、証拠金徴求のタイミング、値幅制限の設計、システム維持費という、国内商品市場が議論し尽くしてきた論点表とほぼ重なる。
 数枚の注文で値が飛ぶ時間帯に付いた価格を、翌日の証拠金計算にどこまで用いるのか。深夜の急変時に追証をどう徴求するのか。夜間の売買審査に人手と費用をどれだけ割くのか。夜間市場がこれから直面する運用課題の多くは、これまで産構審などで議論された商品市場の復興に関する議事録に大抵のヒントは出ているはずである。
 むしろ注意すべきは、この競争が日本の何時に立ち現れるかである。米国が新設する夜間セッションは米東部時間21時から翌4時、日本時間では冬時間でおよそ11時から18時、夏時間では10時から17時に当たる。すなわち23時間化によって新たに開くのは日本の夜ではなく、東証の立会時間と真正面から重なる日本の昼である。日本の個人は従来から、米国の通常取引が動く深夜から早朝にかけて米国株を売買してきた。そこに加えて、東証が開いているその時間に、米国市場が直接の選択肢として並ぶことになる。国内証券会社が対応すれば、家計の資金は同一時間帯で二つの市場に奪い合われることにもなる。
 しかも需要側の条件は、商品市場の時とは決定的に異なっている。NISAを起爆剤に「貯蓄から投資へ」は現実に動き出し、家計マネーは年数兆円規模で市場へ向かっている。ただしその相当部分は、海外株式型や全世界株式型の投資信託を通じて国外資産にも向かう。投資は拡大するのに国内市場が選ばれない悪夢――勧誘規制で個人を失った商品市場とは入口こそ違うが、同様の空洞化を招きかねない。

参考PDF:日米取引時間 遍歴比較
(Futures Tribune 2026年8月4日発行・第3448号掲載)
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