
AIエージェント金融取引、近未来の執行主体へ・上
2026-07-27
MUFGが分科会設置、銀行・ベンダー・法律家で協議
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と三菱UFJ信託銀行は6月30日、AI(人工知能)エージェントが顧客に代わり金融商品取引を自律的に執行する時代を見据え、三菱 UFJ 信託銀が主催するDID/VC 共創コンソーシアム(Decentralized Identifier / Verifiable Credential Co-creation Consortium、以下、DVCC)に共同で「AIエージェント×金融取引分科会」を設置したと発表した。委任範囲の定義や証明、取引結果の検証可能性をどう担保するか、メガバンク3行と地銀、ベンダー、法律事務所が協議する。これは金融商品取引の執行主体が人間からAIへと広がる未来像を示唆している。
分科会は、AI エージェントが金融機関の顧客に代わり金融商品取引を自律的に実行する時代を見据え、取引の信頼性・安全性・透明性の確保および実務・法令・ガバナンス上の課題について検討する。
三菱UFJ信託銀が主催するDVCCは、分散型ID(DID)と連携したデジタル証明書(VC=検証可能な資格情報)のビジネス共創を目的に2023年10月に発足した組織で、会員企業は53社(26年6月末時点)。
これまでにルール整備や本人確認をテーマとする分科会を運営し、今回はその系譜に連なる新設分科会となる。MUFGが幹事、三菱UFJ信託銀が事務局を務め、活動期間は26年7月から27年3月までを目途とする。
検討成果として、来年度の実機を用いた実証実験を見据えたアーキテクチャーと実証シナリオの策定までを視野に入れる。
参加企業の顔ぶれは幅広く、金融機関サイドは、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、りそなホールディングスのほか、静岡銀行、千葉銀行、横浜銀行、ふくおかフィナンシャルグループ、ローソン銀行、三菱UFJニコス、日本住宅ローンが名を連ねた。
ベンダー側はNTTデータ、NEC、大日本印刷、TOPPAN、日鉄ソリューションズ、GMOグローバルサイン・ホールディングス、パナソニック コネクト、BIPROGYなど。加えて、アンダーソン・毛利・友常法律事務所と西村あさひ法律事務所の2事務所がリーガルカウンセルとして正式に参画した。
法律事務所が検討体制の中核に据えられた事実は、この取り組みの主戦場が技術実証ではなく、民法上の代理・委任の解釈をはじめとする法令・ガバナンス面にあることを意味している。
分科会が念頭に置くのは、投資信託など金融商品の購入・売却や運用判断の一部を、委ねられた権限の範囲内でAIが処理する将来像である。従来のロボアドバイザーが「助言する存在」であったのに対し、検討対象となるのは「委任を受けて取引そのものを執行する存在」だ。
大規模言語モデルの進化により、AIは文脈を踏まえて計画を立て、外部のツールやデータを呼び出しながら一連の作業を完遂できるようになった。生成AIをめぐる企業の関心は、情報処理の支援から業務そのものの委任へと移り、その実行範囲が消費活動の決済から金融商品取引へと広がりつつある。
もっとも、買い物の代行なら失敗しても被害は限定的だが、金融商品の売買となれば、誰の意思で、どこまでの権限で、何を根拠に取引したのかが厳しく問われる。分科会の焦点はまさにこの点で、利用者からAIへの適切な権限移譲のあり方、すなわち委任範囲の定義および証明と、取引実行結果の検証可能性に置かれる。
本人確認、委任範囲の明確化、投資適合性との整合、取引承諾の根拠の記録といった金融機関側の確認事項について、改竄困難なVCを活用する仕組みの実現可能性を検討する。VCは、いわば暗号学的な委任状であり、「誰が、何を、どこまでAIに委ねたか」を第三者が検証可能な形で示す技術基盤となる。
海外の動きは速い。25年9月、米グーグルはAIエージェントの決済規格「AP2(エージェント・ペイメンツ・プロトコル)」を公表した。利用者の意図を記した指図(マンデート)に本人が署名し、AIがその範囲内で動いた証跡を取引相手が確認できる設計である。米オープンAIと米ストライプは共同規格「ACP(エージェンティック・コマース・プロトコル)」を推進し、対話型AI上で商品の検索から購入までを完結させる機能に実装した。
米コインベースの「x402」は、AIが必要なデータを取得する都度、少額を即時決済する規格として提唱されている。カード大手も参入し、米ビザはAIエージェント向けの検証済みIDを、米マスターカードは利用者の意図と取引内容の整合を照合する枠組みを整えつつある。発想は異なるが、いずれも「誰が、どこまでの権限で、何をしたか」を証明可能にする点で共通しており、この考え方はそのまま金融商品取引にも当てはまる。
実装も始まっている。26年3月にはスペインのサンタンデール銀行と米マスターカードが、テスト環境ではなく銀行の規制下にある実際の決済基盤の中で、AIエージェントによる欧州初のエンドツーエンド決済を完了させた。国内でも26年5月、マスターカードの「エージェントペイ」を用いた本番環境でのエージェント取引が日本で初めて実施され、三菱UFJニコス発行のカードなどが用いられた(いずれも下表参照)。
政策面でも呼応する動きが出ている。26年5月19日、自民党デジタル社会推進本部の「次世代AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム」(木原誠二座長)は、AIエージェントの普及により経済活動が連結化・自動化・24時間365日化する時代を見据え、その信頼性を担保する基盤としてブロックチェーンを活用したオンチェーン金融を官民連携で推進すべきとする提言を取りまとめた。金融分野を新たな成長投資分野に位置づけ、トークン化預金やステーブルコインの活用拡大を求める内容で、政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2026)」への反映が調整されていると報じられている。制度・実装の両面で、AIを新たな経済主体として受け止める環境整備が本格化した格好だ。
PDF:AI エージェント×金融取引 内外の主な動き
(Futures Tribune 2026年7月7日発行・第3442号掲載)
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