コメ先物復活の気運高まる(上)~先物業界のバックアップがカギ

2024-03-26

 「コメ先物の市場開設に向けた有識者会議」(議長:土居丈朗慶大教授)は3月1日、第2回目の会合を開き、現在本上場申請中であるコメ先物市場に関し商品先物業者を中心に啓蒙活動を図るなどの振興策を提案した。具体的には①当業者(生産者、卸売業者、集荷業者、実需者等)へのコメ先物の活用方法の啓蒙、②農業従事者が堂島取引所の平均米価を閲覧するための口座開設の促進、③商品先物業界としてのコメ先物上場の機運を高める振興策の実施―で、日本商品先物振興協会もバックアップに前向きな姿勢だという。会合の議事内容は次回に譲り、前半では本上場不認可を振り返ってみる。


コメ先物不認可の正当性は?急遽設定された意見聴取

 3年前の2021年8月、堂島取のコメ先物市場は試験上場のまま姿を消した。試験上場はと、本上場の前に一定期間を区切って試験的に上場し取引を行うことで、先物市場の機能や生産・流通への影響などを検証する目的で実施される。これは主務大臣、つまりコメの場合は農水大臣の認可を受けて初めて可能となるもので、運転免許で例えると仮免の状態に相当する。試験上場の末に本上場の認可申請、又は本上場申請の取り止めによる廃止、あるいは試験上場の延長という三択のいずれかへ進むことになる。
 平成以降、農産物ではトウモロコシ、アラビカコーヒー、鶏卵などが試験上場から本上場へ移行したが、ブロイラー、食用ばれいしょ、大豆ミールなど本上場申請をせずにそのまま取り止めになった商品もある。
 2011年8月に取引を開始したコメの試験上場期間は2年間だが、2013年(平成25)に試験上場の延長、2015年(同27)に再延長、次いで2017年(同29)、2019年(令和元)にもそれぞれ試験上場延長の申請という形が続いた。ただし2017年のケースは一旦本上場申請に踏み切ったものの、直後に申請を引っ込めて試験上場申請に差し替えている。
 試験上場の認可基準は①十分な取引量が見込まれないことに該当しない、②生産・流通に著しい支障を及ぼすおそれがあることに該当しないというもので、これが本上場の認可基準では①十分な取引量が見込まれる、②生産・流通を円滑にするために必要かつ適当―に変わる。いわば試験上場は加点方式、本上場は減点方式で認否が決まる。
 本上場の申請は農水省と協議の上で2021年7月16日に行われた。この時点では関係者皆が本上場達成を疑っていなかった。それが27日に急遽農水省から意見聴取開催の通知が届いたのである。


コメ先物不認可の正当性は?急遽設定された意見聴取

 通常意見聴取は不認可を前提として行われるもので、申請側の意見を聞くという一種の通例儀式に過ぎない。
 聴取は翌8月5日、農水省本館で開かれたが、農水省からは大臣官房新事業・食品産業部新事業・食品産業政策課の長野麻子課長、同・三浦那帆課長補佐、同課・渡邉泰輔商品取引室長が出席した。
 堂島取は中塚一宏社長が①コメ取引に参加する生産者数は、試験上場Ⅰ期の取引開始時(2011年8月)以降、Ⅴ期の直近2年間に至るまで10年間一貫して増加している様子や、流通業者数も当初より安定した水準を確保している、②相場状況などを考慮しても委託者口座数は2015年時点の2,486口座(うち当業者93口座)から今年は3,609口座(同249口座)と増加傾向が顕著である、③参加者構成を建玉ベースでみても、主力の新潟コシでは当業者割合が約5割を占めている、④現物受渡しもコンスタントに利用されており、つまり販売や仕入れを円滑化するために生産および流通現場で活用されていることの証左である―といった反論が成されたが、結果は当然覆らずそのまま翌6日に本上場申請を不認可とする通達が送られた。
 認可基準の①については、取引量が年初より増加し、大阪取引所の金、東京商品取引所の原油といった主力商品と月間出来高の合計を比較しても、取引のある23商品ほどのうち全商品で5番目クラスの出来高を有しており、農産物の中では最も流動性があった。
 しかも4月にはネット証券最大手のSBI証券が1年後を目途に堂島取と接続すると発表している。同社の持つ国内証券会社最多の600万(当時)を超える顧客が堂島取で取引できるようになるはずだったのである。商品先物業界はピーク時でも10万口座の水準であったことから、業界内でも流動性向上に期待する声は高かった。こうした状況を考慮して、取引量が見込まれないという指摘はいかがなものだろうか。現時点の出来高でも本上場認可には十分と判断できたはずである。
 ②の生産および流通を円滑にするとの存在意義についても、同年6月に堂島取が行った新潟、秋田、宮城の産地セミナーで参加者に向けたアンケート結果からもわかる。
 生産当業者の代表で講演した木津みずほ生産組合の坪谷利之代表は、「コメ先物をやりたい人だけがやればいい」と、販売先の選択肢のひとつとしてコメ先物を捉え、数年間取引を行っている。セミナーではコメ先物の有用性を強調した上で、「参加している人間がいるのだから、廃止する必要はない」との考えだ。
 これまでコメ先物反対派は、「コメを投機の対象にするな」と、主食の安定供給という観点から反対しているが、現状のコロナ禍では外食需要が激減し、コメ余りの結果値段が下がり生産流通の当業者に大きな損失を及ぼしている。
 こうした突発的なアクシデントに対応するために先物取引が整備されているのであり、反対派の指摘は的を外れている。実際この試験上場期間10年で、先物があるためにコメ価格が乱高下したという事実はないのである。
 それではなぜコメ先物を不認可にしなければならなかったのか。今回の不認可は大手マスコミでも大きく扱われた。論調はおおよそコメ先物の必要性を訴えるもので、裏を返せば日本のコメ価格がいかに透明性に欠けたものかを物語っている。
 他紙では農水省を批判する声は多いが、しかし担当部署に限って言えばコメ先物の将来性を理解し、応援してくれた。JAも反対派ばかりではなかった。コメ先物は、一部の農林族議員によって潰されたのである。

(Futures Tribune 2024年3月19日発行・第3275号掲載)

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