証券・商品・FX、手数料引下げ競争が勃発したあの頃―2005年
ネット証券大手SBI証券vs楽天証券、手数料無料競争再び

2023-09-06

 改正商品取引所法が施行された2005年(平成17)当時、証券・商品・FXの取扱業者は手数料収入が収益の柱だった。だがこの年は商品先物市場が加速度的に縮小を早める端緒となった年で、それは年初に導入された委託手数料の自由化に始まっている。当初は様子見の姿勢だった商先業者各社も徐々に引下げに及んでいったが、手数料引下げ競争はネット証券やFXにも広がった。この動きは今に至るまで続き、ネット証券大手のSBI証券と楽天証券を中心に手数料無料競争が再燃した。今回は当時の手数料引下げの状況を振り返ってみたい。


「あまりにも急すぎた」、商品先物市場の制度変更

 2005年5月、改正商品取引所法が施行され、商先業者の行為規制が大幅に強化された。強引な営業行為により顧客とのトラブルが頻発していた商先業界にとっては、身から出た錆とはいえその影響は大きかった。
 法改正直後の同年7月に日本商品先物振興協会が会員86社に向けて実施したアンケート(回答80社)では、第1四半期(4~6月)の改正法施行時を含めた3カ月間の委託売買高において、「増加した:18社」に対し「減少した:51社」と、すでに右肩下がりとなっている市場の状況が見て取れる。
 東京穀物商品取引所の森實孝郎理事長は当時、人形町の日山で開催された記者との懇談会で「あまりにも急すぎた」と市場衰退の要因を語っている。これは立て続けに施行された市場ルールや法案を指しており、同年は年初から委託手数料の自由化が導入され各社の引き下げ競争が始まった。
 さらに4月には個人情報の保護に関する法律が施行され、投資経験者などの名簿売買が規制された。とどめが前述した5月の改正法施行で、勧誘相手に対する適合性原則の適用、再勧誘禁止といった営業手法の抜本的変革を余儀なくされた。
 現在でも存続している商先業者は、目先の利益に走らず上記の制約を受けながらも法令遵守の徹底を堅持してきたが、一方で従来どおりの営業手法を変えられずに行政処分の対象となり、市場から撤退していった業者も数多かった。
 ただ、手数料の引下げ競争は商品先物のみならず、ネット証券やFXでも進行していったが、競争激化の端緒は商品先物同様05年であった。

イー・トレードvs楽天、覇を競った手数料引下げ競争

 株式の委託手数料が自由化されたのは、商品先物より5年ほど早い1999年(同11)10月1日(参考:アメリカでは1975年5月1日に自由化)だった。
 国内初の個人投資家向けネット証券サービスは、96年8月、大和証券が開始した「ダイワのオンライントレード」だが、ネットを含む非対面取引(外務員を介さない取引)専業に業態転換した最初の証券会社は、98年5月にサービスを開始した松井証券だった。
 だが翌99年4月にマネックス証券が設立されると、同年8月にはソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)がソフトバンク・フロンティア証券(その後イー・トレード証券を経て現・SBI証券)や楽天証券といった現在最大手クラスのネット証券が次々と市場に参入している。
 05年10月、まずは口座数首位のイー・トレードが業界最低水準による低価格戦略で独走態勢を固める方針を打ち出した。これに対し楽天もイー・トレードとほぼ同水準の低料金にシフトしている。もともとイー・トレードは手数料の料金設定について「低価格は営業戦略の重要なファクター」(北尾吉孝SBIホールディングスCEO)との方針に基づき、ネット証券の中で常時最低水準の料金体系を維持してきた。
 これにより口座数は拡大傾向を辿り、05年3月末時点での各社の口座数はイー・トレード68万口座、マネックス・ビーンズ45万口座、松井31万口座、楽天30万口座、カブドットコム26万口座となっていた。イー・トレード(現・SBI証券)はその後口座数が急拡大し、今では1,000万水準の口座数で国内最大規模となっている。
 当時のイー・トレード独走態勢に対抗すべく、楽天は「イー・トレードの背中が見えるうちに巻き返しを図りたい」(國重惇史社長)と、価格帯を同水準に据えた。
 なおこの時両社が導入した新料金体系は、1回当りの売買代金50万円以下=472円(税込、以下同)、150万円以上=1,575円、信用取引ではイー・トレードが1回当りの売買代金30万円以下=262円、30万円超=472円、一方の楽天が1日当り50万円まで=525円、100万円まで=945円、300万円まで=3,150円と、「1回当り」と「1日当り」という違いはあるが、これが当時のネット証券における、最安値の料金体系であった。

関連記事:手数料引下げ競争の行く着く果ては?
(Futures Tribune 2023年9月5日発行・第3237号掲載)
先物業界関連ニュースに戻る