商先市場縮小の中で高まった取引システム共有化議論【1】
2023-10-16かつての東穀取立会場
東京商品取引所が日本取引所グループ(JPX)傘下の大阪取引所が使用する取引システム「J-GATE」の共同利用を開始したのが2016年9月20日で、7年が経過した。東商取のシステム取引は、東京工業品取引所時代の1991年4月1日に始まった。当時の間渕直三理事長は「システム売買はひとつの手段。目的は国際化への対応であり、商取業界を大きく伸ばすこと」と決意を語り、その後商取業界でもシステム取引導入の流れは進んだが、各取引所が自己都合で行ったために取引仕法もバラバラで将来に向けたビジョンもなかった。今回は2006年に起こった共有化議論を振り返ってみたい。
東穀取と中部取のシステム共有化議論勃発
まず2006年の商品先物業界が置かれた状況をみると、前年の05年5月に改正商品取引所法が施行され、商先業者の営業規制が大幅に強化された。加えて同年1月には手数料の自由化、4月には個人情報保護法が完全施行されたことで、「名簿業者から入手した名簿を使い片っ端から電話営業、もしくは戸別訪問ローラー方式で委託者を開拓し続ける」というこれまでの主要なビジネスモデルからの大幅な転換を余儀なくされていた。
国内に6カ所あった商品取引所も出来高が右肩下がりで、03年の1億5,400万枚をピークに減少の一途を辿り始める。その分商先業者からの会費収入も減り取引所は経営基盤そのものが揺さぶられていった。
財政的に最も余裕があった東工取も同年8月に月間収支がとうとう赤字に転じている。他取引所は東穀取が7月、中部取が4月に赤字状態になり、関西商品取引所(現・堂島取引所)、大阪商品取引所、福岡商品取引所は財政悪化で自主再建が困難な状況とされていた。
海外に目を向けると、すでにシステム問題が原因で取引所の統合・合併の動きが国家をまたいで活発化しつつあった。この影響で、東工取は10年のシステム更新に向け次世代システムの検討に入っている一方、関西取と福岡取は合併協議が進んでおり、東穀取と中部取のシステム共有化議論は極めて業界内が不安定な状態で進んでいくこととなった。
大誤算のコメ先物不認可、宙に浮いたザラバシステム
コメ先物市場は2011年3月8日に東穀取と関西取が同時に試験上場申請を行い、72年ぶりの実現に至ったものだが、これは現体制下では2度目の申請で実現したもので、東穀取の1度目は05年12月9日(関西取は同月16日申請)に申請した。しかし06年3月29日、農水省は両取引所の申請を不認可とした。「法令に基づいて検討した結果、生産に著しい支障を及ぼす恐れがあると判断した」というのが不認可の理由だが、平たく言えば生産者団体の「コメを上場させたら生産調整計画に協力しない」という圧力に農水省が屈した形だ。
当時板寄せ取引だった東穀取は当初からコメ先物をザラバ仕法で取引するつもりで、ザラバシステムの開発を終えスタートの準備は整っていた。そこへまさかのコメ先物不認可で、収益を産まない未稼働のザラバシステムに維持費だけがかかってくる状況に陥ってしまう。東穀取にとってはまさに最悪の形だった。
何とか新システムを活用したい東穀取は、板寄せ仕法の既存商品をザラバに変えて新システムを稼働させようと試み、会員各社に提案した。だが板寄せに馴染んだ会員から反発の声も多く、会員意向のアンケート調査、システム担当役員の協議会を経てもザラバ移行への合意が得られず、ザラバ取引における市場管理のあり方を含め高いレベルでの検討を引き続き行うとする結論を出している。
ただ、板寄せシステムについても翌07年末に耐用期限を迎えるため、新たなシステム更新の必要にも迫られていた。その際ザラバ用に開発した新システムは板寄せのプログラムにも対応しており、現行システムの後継として活用するという案が出された。
平行線を辿った東穀・中部両取引所の議論
時を同じくして、中部取にも新システム計画案が浮上し設計・開発段階に入っていた。出来高低迷からコスト削減が重要な課題となっている商先業者側では、日本商品先物振興協会が窓口となって両取引所に対し7月26日付でシステムの共有化を要請した。これを受け東穀・中部両取は1カ月ほど協議したが、議論は平行線を辿っただけだった。
先物協会は経過報告を求め両取から中間とりまとめの議論が8月24日に行われたが、やはり議論は平行線に終わっている。
両取の議論はシステムの「安全性・信頼性」、「低コスト」、「高機能」の3点が中心だったが、議論を進める過程でいくつかの内部問題がクローズアップされている。
これは東穀取の場合①新システムの信頼性、②既存商品のザラバ移行への抵抗、③コメ先物の再申請、④収益を産まない新システムの償却問題、⑤その責任問題、⑥新システムへの板寄せ対応におけるコスト増―といった問題が指摘されていた。
新システムの会員の負担については、すでに約10社が中継端末への投資を行っており、未使用状態が続けば投資資金の回収あるいは償却のめどが立たないことから経営責任を問われかねないとする声も上がった。
これらに対し東穀取は「これからもその都度説明し理解を求めていきたい」との姿勢を強調したが、会員の不信感はなかなか払拭できず、怪文書の形になって現れる。
(Futures Tribune 2023年10月10日発行・第3244号掲載)
出典:「東京穀物商品取引所50年史」,2003年3月
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