コメ先物、廃止する正当な理由があったのか?【3】

市場拡大・将来性主張も通過儀礼の壁越えられず

 通常意見聴取は不認可を前提として行われるもので、申請側の意見を聞くという一種の通例儀式に過ぎない。
 聴取は2021年8月5日、農水省本館で開かれたが、農水省からは大臣官房新事業・食品産業部新事業・食品産業政策課の長野麻子課長、同・三浦那帆課長補佐、同課・渡邉泰輔商品取引室長が出席した。
 堂島取は中塚一宏社長が①コメ取引に参加する生産者数は、試験上場Ⅰ期の取引開始時(2011年8月)以降、Ⅴ期の直近2年間に至るまで10年間一貫して増加している様子や、流通業者数も当初より安定した水準を確保している、②相場状況などを考慮しても委託者口座数は2015年時点の2,486口座(うち当業者93口座)から今年は3,609口座(同249口座)と増加傾向が顕著である、③参加者構成を建玉ベースでみても、主力の新潟コシでは当業者割合が約5割を占めている、④現物受渡しもコンスタントに利用されており、つまり販売や仕入れを円滑化するために生産および流通現場で活用されていることの証左である―といった反論が成されたが、結果は当然覆らずそのまま翌6日に本上場申請を不認可とする通達が送られた。

 認可基準の①については、取引量が年初より増加し、大阪取引所の金、東京商品取引所の原油といった主力商品と月間出来高の合計を比較しても、取引のある23商品ほどのうち全商品で5番目クラスの出来高を有しており、農産物の中では最も流動性がある。
 しかも2021年4月にはネット証券最大手のSBI証券が1年後を目途に堂島取と接続すると発表している。同社の持つ国内証券会社最多の600万を超える顧客が堂島取で取引できるようになるはずだったのである。商品先物業界はピーク時でも10万口座の水準であったことから、業界内でも流動性向上に期待する声は高かった。こうした状況を考慮して、取引量が見込まれないという指摘はいかがなものだろうか。現時点の出来高でも本上場認可には十分と判断できたはずである。
 ②の生産および流通を円滑にするとの存在意義についても、6月に堂島取が行った新潟、秋田、宮城の産地セミナーで参加者に向けたアンケート結果からもわかる。
 こうした突発的なアクシデントに対応するために先物取引が整備されているのであり、反対派の指摘は的を外れている。実際この試験上場期間10年で、先物があるためにコメ価格が乱高下したという事実はないのである。

 それではなぜコメ先物を不認可にしなければならなかったのか。今回の不認可は大手マスコミでも大きく扱われた。論調はおおよそコメ先物の必要性を訴えるもので、裏を返せば日本のコメ価格がいかに透明性に欠けたものかを物語っている。
 他紙では農水省を批判する声は多いが、しかし担当部署に限って言えばコメ先物の将来性を理解し、応援してくれた。JAも反対派ばかりではなかった。コメ先物は、一部の農林族議員によって潰されたのである。

(Futures Tribune 2021年8月10日発行・第3088号掲載)

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