商品先物業界紙はフューチャーズトリビューン

令和初期(元年~4年)の商品先物10大ニュース

2022-12-29

※順位は商品先物業界に与えた影響の大きさを編集者が独自に判断した

第1位証券・金融・商品、総合取引所が本格始動2020年7月27日
第2位コメ先物取引が本上場不認可、10年の試験上場経て2021年8月6日
第3位電力先物が本上場、経産省のバックアップ受け2019年9月17日
第4位SBI証券、900万口座を堂島取へ繋ぐ公式声明2021年4月28日
第5位日産証券が岡藤グループを吸収、完全子会社に2020年10月1日
第6位SBIの支援受け堂島取が株式会社化2021年4月1日
第7位東商取、液化天然ガス(LNG)先物を試験上場2022年4月4日
第8位商品先物アンテナショップ「TOCOMスクエア」が閉館2020年8月31日
第9位金融取、店頭FXクリアリング業務を開始2021年5月17日
第10位大阪取、CME原油等指数先物を上場2021年9月21日

【解説】

第1位 証券・金融・商品、総合取引所が本格始動(2020年7月27日)

 総合取という概念が国内で初めて世に出たのは、第1次安倍晋三政権が2007年に閣議決定した「経済財政改革の基本方針2007~『美しい国』へのシナリオ」に遡る。いわゆる「骨太の方針」で、「取引所において、株式、債券、金融先物、商品先物など総合的に幅広い品揃えを可能とするための具体策等を検討し結論を得る」と提案された。だがその後、旧民主党への政権交代や、東日本大震災への対応に追われて議論が停滞した。議論が再燃したのは第2次安倍政権が発足した直後で、きっかけは2013年1月に東京証券取引所と大阪証券取引所が経営統合し、日本取引所グループ(JPX)が発足したことだった。
 商品先物業界でも、翌2月には大規模な再編があった。東京工業品取引所が東京穀物商品取引所の農産物市場を引き継ぐ形で東京商品取引所となり、同時に関西商品取引所も東穀取のコメ先物市場を引き継いで大阪堂島商品取引所(現・堂島取引所)と商号を変え、現在の東西2取引所体制へと移行した。翌2014年施行の改正金融取引所に、総合取実現を見込んだ規定が盛り込まれたことも、総合取実現の機運を高めた。さらに同年6月に閣議決定した「『日本再興戦略』改訂2014」では、「総合取引所を可及的速やかに実現する」と踏み込んでおり、大きな前進を予感させたが、そこからまた停滞が始まる。これが再び動き出すきっかけとなったのが、当時の金融庁長官・遠藤俊英氏であった。2018年夏、金融庁が新体制に移行し、遠藤氏も長官就任間もない頃、霞ヶ関の金融庁舎をJPXの清田瞭最高経営責任者(CEO)が訪れ、遠藤氏に「(総合取引所を)やりたいと思っている」と決意を示したことが引き金となった。
 もともと遠藤氏は監督局や検査局といった金融機関と直接やり取りする部署が長かったが、検査局長に就任する前の2013年6月から1年間、総務企画局審議官を務めている。この時担当したのが総合取引所構想を含んだ骨太の方針で、「可及的速やかに実現する」はずの総合取がまったく進展しない状況に忸怩たる思いを抱いていたようだ。このため清田氏の決意に即座に応じ、誕生したばかりの企画市場局の市場課ラインを担当させ、経産省や証券業界など幅広い関係者と接触を重ね、清田氏を後押しする環境づくりに努めた。同時に「経産省にとってもメリットのあるやり方を」と命じ、現実的な落としどころを探り始めた。
 この後さらに総合取実現に向けた追い風が吹いた。政府の規制改革推進会議が金融庁の強烈な援軍となったのである。議長の大田弘子政策研究大学院大学教授が総合取に強い関心を持っているらしいとの情報を得た企画市場局は、金融庁のスタンスを説明した。大田氏も経産省の態度を見極めた結果、「規制改革推進会議第3期重点事項~来るべき新時代へ」の中で3番目の項目に「総合取引所の実現」を明記した。本文には「★」マークが付けられたが、これは緊急に取り組むべき事項を強調する印である。
 これら周囲の動きに連れて両取引所の関係づくりも進み、2018年9月下旬、JPX本社に清田CEOを東商取の濵田隆道社長が訪ね、取引システムから一緒に話し合っていくことで合意したとされている。こうした水面下での調整が2019年3月28日の総合取基本合意に繋がった。

第2位 コメ先物が本上場不認可、10年の試験上場経て(2021年8月6日)

 堂島取のコメ先物市場は、試験上場のまま姿を消すこととなった。試験上場は本上場の前に一定期間を区切って試験的に上場し取引を行うことで、先物市場の機能や生産・流通への影響などを検証する目的で実施される。これは主務大臣、つまりコメの場合は農水大臣の認可を受けて初めて可能となるもので、運転免許で例えると仮免の状態に相当する。試験上場の末に本上場の認可申請、又は本上場申請の取り止めによる廃止、あるいは試験上場の延長という三択のいずれかへ進むことになる。
 平成以降、農産物ではトウモロコシ、アラビカコーヒー、鶏卵などが試験上場から本上場へ移行したが、ブロイラー、食用ばれいしょ、大豆ミールなど本上場申請をせずにそのまま取り止めになった商品もある。コメも残念ながらそうなった。
 コメに限らず商品先物の試験上場期間は2年間だが、2013年に試験上場の延長、2015年に再延長、次いで2017年、2019年にもそれぞれ試験上場延長の申請という形であった。一旦、本上場申請をすると、農水省は認否のみを判断することになり、例えば「本上場は無理だが、廃止は忍びないから試験上場延長へ移行」とはならない。どのような申請にしろ、農水省は白黒の判断を下すだけである。実際に堂島の2017年のケースでも、一旦本上場申請に踏み切ったものの、直後に申請を引っ込めて試験上場申請に差し替えている。
 試験上場の認可基準は①十分な取引量が見込まれないことに該当しない、②生産・流通に著しい支障を及ぼすおそれがあることに該当しない―というもので、これが本上場の認可基準では①十分な取引量が見込まれる、②生産・流通を円滑にするために必要かつ適当―に変わる。いわば試験上場は加点方式、本上場は減点方式で合否が決まる。
 本上場の申請は農水省と協議の上で2021年7月16日に行われた。この時点では関係者皆が本上場達成を疑っていなかった。それが27日に急遽農水省から意見聴取開催の通知が届いたのである。
 通常意見聴取は不認可を前提として行われるもので、申請側の意見を聞くという一種の通例儀式に過ぎない。
 堂島取は①コメ取引に参加する生産者数は、試験上場Ⅰ期の取引開始時(2011年8月)以降、Ⅴ期の直近2年間に至るまで10年間一貫して増加している様子や、流通業者数も当初より安定した水準を確保している、②相場状況などを考慮しても委託者口座数は2015年時点の2,486口座(うち当業者93口座)から今年は3,609口座(同249口座)と増加傾向が顕著である、③参加者構成を建玉ベースでみても、主力の新潟コシでは当業者割合が約5割を占めている、④現物受渡しもコンスタントに利用されており、つまり販売や仕入れを円滑化するために生産および流通現場で活用されていることの証左である―といった反論が成されたが、結果は当然覆らずそのまま翌8月6日に本上場申請を不認可とする通達が送られた。

第3位 電力先物が本上場、経産省のバックアップ受け(2019年9月17日)

 電力先物は2014年、電気事業法等の一部を改正する法律による商品先物取引法の改正により、無体物の上場を可能としたことで本格的に検討が始まった。翌2015年3月から経産省主導で電力先物市場協議会が開催され5回会合を行った後7月に報告書を取りまとめ、着々と土台を固めていった。
 取引所サイドも2016年6月から東商取が電力先物の模擬売買を開始し、2017年12月から再度経産省主導で電力先物市場の在り方に冠する検討会が4回開催されてきた。同会議も2018年4月に報告書を取りまとめ、今年3月に試験上場を認可申請し、8月に認可を取得、翌9月17日にようやく取引開始に至った。
 取引開始初日、ロイヤルパークホテルで上場記念パーティーが開催され、経産省の藤木俊光商務・サービス審議官はエネルギーの安定供給を「重い課題」とし、電力先物市場の発展に期待を寄せた。日本商品先物振興協会の多々良實夫会長は、挨拶で電力先物で一般委託者の参入が除外されている点に苦言を呈し、規制の排除を求めている。

第4位 SBI証券、900万口座を堂島取へ繋ぐ公式声明(2021年4月28日)

 国内の証券会社で最多の顧客数(口座数)をもつSBI証券が、堂島取引所に接続し自社の個人投資家が商品先物を取引可能にすると発表した。SBI証券は国内ネット証券の最大手で、口座数は900万口座以上(当時は680万口座)と対面最大手の野村證券を大きく上回っている。仮にSBI証券の顧客のうち1%が堂島の商品を取引するとしても、約9万人が商品先物に参加することとなり、一気に取引規模が膨れ上がる可能性がある。2021年8月時点の集計では、商品先物業者全体の個人投資家口座数の合計がおよそ7万口座であり、堂島取が東京商品取引所と肩を並べると、業界内から期待する声も出ていた。
 もともと堂島取が2017年12月、システム更改の際に業界内の反対意見を押し切ってSBI系のシステムを導入したのは、SBI証券の個人投資家参入を狙ってのものだった。堂島取理事会でも意見が二分し、最終的に岡本安明理事長がSBIに舵を切った経緯がある。
 2023年3月の金上場を機に本格接続が実現すれば、堂島取にとって6年越しの夢が結実することになる。

第5位 日産証券が岡藤グループを吸収、完全子会社に(2020年10月1日)

 日産証券グループは総合取引所の設立における商品先物上場商品の移管など、激変の時期にある金融市場での競争力を強化するためには、個別で対応するより企業グループとして当たった方が収益的なメリットが大きいと判断し岡藤グループを子会社化した。
 商品先物老舗の岡藤商事は 1951年8月創業で、商品先物取引業及び貴金属地金販売業を主力に業界の大手として流動性向上に寄与してきた。90 年代には商品ファンドを黎明期から手掛け、さらに純金積立、商先受託業務のオンライントレードを開始し、95年10月に株式を上場した。その後05年4月に持株会社体制へ移行し、岡藤商事はグループ中核事業会社としてグループの収益に貢献した。岡藤HDは資本金35億700万円、前期末時点の従業員数173人(連結)で、大株主の議決権比率は日産証券18.65%、岡三にいがた証券5.69%、ユニオンツール4.64%と続いていた。
 一方の日産証券は資本金15億円、前期末時点の従業員数は280人(単体)で、大株主の議決権比率はユニコムグループホールディングス96.89%、岡藤ホールディングス2.39%、トレードワークス0.72%という内訳である。
 今回の株式交換により日産証券の筆頭株主であるユニコムGHDが4,576万5,000株83.47%を保有するため、新会社の議決権割合を83.47%有し、ユニコムGHD→岡藤日産証券HD→日産証券という、商品先物の老舗大手2社による強固な縦のラインが作られる。
 なお岡藤HDは現在東京証券取引所JASDAQ市場に上場しているが、株式交換後は上場廃止基準に基づく「合併等による実質的存続性に係る猶予期間入り銘柄」に指定される可能性があるものの、引き続き同市場での上場を維持する方針。日産証券は非上場会社のためこれらには該当しない。
 岡藤HDと日産証券は2018年(平成30)5月に資本業務提携を交わし、翌年2月には経営統合に関する基本合意書を締結した。以後、子会社の岡藤商事のネット顧客を日産証券に移管するなど統合に向けた準備を続けてきた。

第6位 SBIの支援受け堂島取が株式会社化(2021年4月1日)

 経営難に陥っていた堂島取がSBIグループの支援を受け、株式会社化した。これには2020年1月に発足した「経営改革協議会」(議長:土居丈朗・慶大経済学部教授)が大きく関与し、将来構想を含めた提言書を同年10月に公表している。基本要件は以下の4点で、①流動性があり、市場から見て必要とされる取引所かつ国益に叶う取引所であること、②市場利用者にとって使い勝手が良く、投資家保護が徹底された市場であること、③株式会社としてガバナンスが効いた経営効率の高いサステナブルな取引所であり続けること、④既存のデリバティブ市場の枠にとらわれず、リスクマネジメントを必要とする、あらゆる取引のリスクヘッジ市場を目指すこと―である。
 また同会議では株式会社化後の堂島取について、発展の過程をステージ分けし、各段階でのビジネスモデルを詰めており、総合取へのステップとしてステージを①農水省専管、②経産省認可取得、③金融庁認可取得―と3段階に分けた。堂島取はこれに沿って金上場に向け取り組みを進めているが、コメ先物の本上場申請が不認可となり、再復活に向け検討を開始している。

第7位 東商取、液化天然ガス(LNG)先物を試験上場(2022年4月4日)

 2020年7月の総合取引所スタート後、LNGは初めての新規商品上場となった2022年は2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻で世界的にエネルギー商品への関心が高まっており、東商取の石崎隆社長は日本でLNG先物を上場する意義について「LNGの需要が集まるアジアにおいて、アジア時間での価格形成が可能となる」と述べている。実際LNGは、国際貿易において世界トップ5に入り、原油、金、鉄鉱石に次ぐ市場規模であり、日本、中国、韓国など北東アジアのLNG輸入量は世界全体の半数以上を占めている。
 このうち日本のLNG輸入量は90%以上で、約65%は火力発電としての発電燃料、残りは都市ガス原料として使われている。なお国内の都市ガスはほぼLNGで供給を賄っている。

第8位 商品先物アンテナショップ「TOCOMスクエア」が閉館(2020年8月31日)

 東京商品取引所(TOCOM)ビル1階に設置されたTOCOMスクエアは、2016年5月に開館した。施設は①商品先物取引制度の普及啓発、②商先業者の営業支援(セミナー開催・外務員向け勉強会)、③トレードに係る体系的なセミナー開催、④ラジオ日経などの放送メディアとコラボした公開放送、⑤ウェブ配信、⑥地域振興への寄与―を主な目的としていた。
 正面入口右側のラジオブースは、東商取が番組提供するラジオNIKKEIの「マーケット・トレンド」のほか、日経CNBC「ラップトゥデイ」、コモディティオンラインTVを公開放送してきた。ラジオブースはガラス張りで外からでも放送の様子が確認できた。
 体験コーナーは50インチの大型モニターにマーケット情報を表示し、来館者が自由に操作できる情報端末ではロイターやQUICKの最新情報を発信した。またプロジェクターにより、1階受付上部の壁面に200インチ相当の画面でマーケット情報を映写し、来客用のタブレット「iPad」も用意していた。
 TOCOMライブラリーも併設し、誰でも利用可能として大手日刊紙の設置、商品先物を含む経済学や金融工学などの専門書を300冊配置するなどして集客効果を高めた。
 またかつて東京穀物商品取引所が取り組んだような地域交流も目指していたため、日本橋七福神巡りの休憩場所にも開放しており年間400人ほどが立ち寄った年もあった。
 これらの結果、設備や開放的な雰囲気に個人投資家の認知も進み、「取引所の雰囲気が感じられる場所で学習できるのは貴重な経験」といった声も寄せられていた。

第9位 金融取、店頭FXクリアリング業務を開始(2021年5月17日)

 名称は「T-CLEAR FX」で、当初はGMO クリック証券とセントラル短資が参加、またリスクをカバーするプライムブローカーにはコメルツ銀行とバークレイズ銀行が参加した。木下信行社長は市場開設に向け「従来のFX 市場は取引の信用リスクを担保するために、カバー先の信用調査が大変だった。ここへ取引所が入ることで信用調査が必要なくなり業者にとって利便性の高い金融インフラサービスとなる」と利点を強調している。
 一般的な店頭FX 市場におけるカバー取引および決済においては、業者が投資家の注文を自己ポジションとして引き受け、外為市場で金融機関と相対のカバー取引を行うことでリスクをコントロールしてきた。カバー先の金融機関は複数あり、最終的にこれらのポジションや担保の預託をプライムブローカーに集約し、担保の清算・決済の管理を行ってきた。
 これが金融取のクリアリングシステムでは、前述したプライムブローカーの役割を金融取が代替・補完するもので、FX 業者が行うカバー取引の決済をより安心・安定的に行えるような仕組みとなっている。
 仮に「T-CLEAR FX」の参加業者が破綻などで支払い不能となった場合、取引の相手方である金融取が損失を受けることになるが、こうした事態に備え参加業者から違約損失積立金を積み立ててもらい、これを超える損失は参加業者が相互に損失を負担し清算機関としての機能を守る。

第10位 大阪取、CME原油等指数先物を上場(2021年9月21日)

 シカゴマーカンタイル取引所グループ(CME)が上場する石油銘柄で算出・公表するCME原油等指数を取引システム「J-Gate3.0」の更改に合わせ上場した。
 同指数はCMEグループのWTI(原油)、RBOBガソリン、ULSD(軽油)を構成銘柄としている。比率は年に1度比率の見直しが行われている。
 この指数を先物取引として上場し、WTI連動ETFの投資家に対するヘッジ手段の参加などを見込んでいる。
 JPXの清田瞭CEOは「大阪取にCME指数を上場することで、(指数主力銘柄のWTI原油と)東商取ドバイ原油で相互に補完し合うことができる」と、大阪取引所での上場意義を強調している。

(Futures Tribune 2022年12月13・20日発行・第3186・3187号掲載)
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