農水省がコメ先物活用法を解説、公では初

2024-10-09
宮長郁夫グループ長

大臣官房新事業・食品産業部商品取引グループ 宮長郁夫グループ長

 農林水産省は1日、農業系シンクタンクの農政調査委員会が主催する「米先物取引」に関する情報交換会でコメの生産者、当業者に対し「米先物取引の意義と期待」を演題に講演した。指数化したコメ先物に対して主務省である農水省が公にバックアップしたのは初めてで、管轄部署である大臣官房新事業・食品産業部商品取引グループの宮長郁夫グループ長(写真)が登壇した。宮長氏は農水省主導で2023年8月から翌1月にかけて実施した「米の将来価格に関する実務者勉強会」の経緯を語り、コメ先物の活用事例などを紹介した。その後は堂島取引所の有我渉社長が、今後の振興策などを説明した。


 宮長氏の講演は約1時間に及んだが、コメの生産者や当業者に対し将来価格が明らかになる意義を示し、複数のコメ取引を組み合わせて活用する事例に繋げて紹介した。具体的には事前契約との組み合わせ、現物市場と先物市場の組み合わせといった、実践的な使い方に踏み込んだ。
 今回の堂島コメ平均本上場に関し、農水省は認可に向け水面下でかなり動き回ったとされている。
 実際、「米の将来価格に関する実務者勉強会」も「将来価格」とは事実上先物価格を意味するが、あえて将来価格としたのは周辺を刺激しない配慮の意味合いがあったとされる。つまり少なくとも2023年夏の段階でコメ先物本上場に向け、農水省は堂島取と歩調を合わせていたことになる。
 こうした関係性は前回、試験上場から本上場への移行を企図していた銘柄米のコメ先物時代も同様だった。前回の商品設計で本上場申請し不認可となったのは2021年8月だが、本上場申請に至るまでの期間は両機関で非常に細やかなやり取りが繰り返され、本上場移行への申請日も農水省のアドバイスによって決められた。
 2カ月前の6月、堂島取は宮城、秋田、新潟のコメ主要産地でセミナーを開催したが、その際も農水省が同行して商品取引室の渡邉大輔室長が「農産物の商品先物取引の制度とコメ先物をめぐる情勢」と題し各地域で解説を行っている。試験上場の期限を目前に控え翌月には本上場申請が確実になされるという段階で、申請を審査する側の農水省がまるで本上場を応援するかのような一連の行為は極めて例外的といえた。
 実際、渡辺室長も各地域でスピーチの出だしに「まだ私たちから上場の可否を申し上げることはない」と逐一前置きしている。
 こうした背景には、農産物市場の危機的な状況が大きく影響している模様だ。9月の出来高をみると、堂島コメ平均以外に出来高実績のあった農産物商品は大阪取のとうもろこしのみで、それも月間68枚とほとんど休眠状態といっていい。その他、かつて商品先物の代名詞でもあった小豆、また大豆も出来高ゼロが常態化している。国内の農産物先物市場はほぼ壊滅状態で、そうなると主務省としての影響力は金融庁と経産省に集約される事態となる。農水省としてこうした展開は避けたいはずであり、コメ先物へのバックアップは本上場を狙ってきた堂島取と利害得失が一致した結果であった。
 ただ、農産物市場没落の責任は日本取引所グループ(JPX)の消極的な姿勢にもある。もともと総合取引所設立に関して東商取から大阪取へ上場商品を移管する際、「金と原油だけでいい」との本音が漏れ聞こえてきたが、少なくとも農産物は当初から厄介者扱いだった。それでも総合取の概念からすれば完全に切り捨てるわけにもいかず、とうもろこしを中心にテコ入れが検討されているようだ。


流動性の確保が先物取引の命、堂島取有我社長が解説

 また同日は堂島取の有我社長が堂島コメ平均について活用法などを解説した。コメント要約は以下のとおり。
 従来のコメの先物取引は対象商品が新潟コシヒカリやあきたこまちといった銘柄米でした。現物決済、受渡しありという仕組みで取引しておりましたが、今回指数にした最大の理由は取引量を集約させるためです。従来の銘柄米も取引量はそれなりにありましたが、個別銘柄に分散されるとマーケットの参加者数に限りがあります。これらを集約し、同じマーケット内で多様な参加者が売買できるようにしたいという理由で今回指数先物を選びました。
 しかし指数先物としたことで何だかわかりにくいという声もあるようですが、取引量の確保、流動性の確保は先物取引にとって命であり、どんなにいい商品であっても鳴かず飛ばずでは市場として成立しません。
 堂島コメ平均は8月13日に上場し、2・4・6月限でそれぞれ1万7,200円の初値を付けて取引が開始されました。そこから連日ストップ高となりましたが、ちょうどこのタイミングで現物価格も端境期でスポット価格も連日ニュースになっておりました。それに連れて先物価格もいったん2万4,000円まで上昇しました。しかし9月4日から下げに転じまして直近1万8,000円台後半まで下落、9月25日からは再び上昇して本日(10月1日)は2万円ちょっとという状況です。
 改めて堂島コメ平均のポイントですが、全国の銘柄米100種類以上の平均米価を先物取引します。例えば2月限ですと農水省が発表する相対取引価格(前月1月の取引)などをベースに算出した2月のコメの相対取引価格平均値(推計値)です。全国で取引される将来の米価の平均値の指標となります。

(Futures Tribune 2024年10月1日発行・第3315号掲載)
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