コメ先物「標準品はシンプルに」 前伊藤忠食糧社長・近藤氏が指摘

2023-10-23
農政調査委員会での近藤秀衛氏

農政調査委員会での近藤秀衛氏

 農政調査委員会は12日、第5回農産物市場問題研究会を開催し「国際穀物取引からみた米先物取引」と題して前伊藤忠食糧社長の近藤秀衛氏(写真)が商社の視点からコメ先物取引の必要性などを解説した。近藤氏は日本のコメ流通における問題点を、商社の視点から「リスクをヘッジできる市場がない」と指摘し、現物・先渡・先物市場を介した取引が価格形成には理想的だとする見解を示した。また豊富な海外駐在経験をもとに中国の先物市場の変遷を辿り、現在大連商品取引所が上場する粳米(ジャポニカ米)の取引状況を紹介し、「標準品はシンプルなものがいい」との自説を述べた。


現物・先渡・先物を介した取引で理想的な価格形成が

 近藤氏はまず国産米の流通実態に焦点を当て、「取引リスクの管理が不十分」と指摘した。その上でコメ卸業者の問題点として、①大きな設備投資を行い精米という加工品を製造しているが、製造業と位置づける意識が乏しい、②製造業でありながら米卸との位置づけ、また業界再編が進んでおらず過当競争も見られ、同類の製粉業、製糖業比較きわめて低い利益構造にある―と業界構造の再編を提起した。さらに低い利益構造の一方で、③価格変動のある原料在庫を持つこと相場リスクおよび資金負担による回収リスク、④価格変動に対するリスク管理が十分行われておらず相場に翻弄され、欠損を余儀なくされる経営に陥りやすい―などと価格変動リスクの危険性を強調した。
 これらのリスクを低減するため、近藤氏は伊藤忠食糧の社長時代「播種前買取契約」として2月初旬の播種前にコメ生産者に対し買取価格を提示して契約を結び、価格変動リスクは同社の負担とする買取契約を履行してきた。
 だが買取側の問題点として、「まず企業として許容可能なリスクの大きさには限度があり、これらリスクをヘッジする市場がない」と市場の未整備を流通業者のリスク要因と位置づけた。
 その上で「現物市場の価格だけでは生産や消費の指標、需給調整を必ずしも満たさない」とし、理想的な価格形成の姿として「現物・先渡・先物市場を介した取引が望ましい」と訴えた。


中国大連市場のコメ先物も参考に標準品はシンプルで

 近藤氏は1975年(昭和50)伊藤忠商事入社後、一貫して食料畑を歩んできた経歴をもつが、延べ10年以上北京に駐在(1991~99、2004~08)したことで中国の内情に詳しい。同氏によると中国の先物市場は1980年半ば以降の解放改革により流通市場の改革が進んだことが発展につながったと指摘する。
 91年6月に深セン有色金属取引所の設立に伴い先物取引が開始された。93年11月、国務院令により市場整理が行われ、33市場が15市場へと集約された。その後98年8月、再度国務院令により15市場が3市場(大連・鄭州・上海)にまで集約された。
 現在では上記3市場に中国金融期貨交易所(上海)、上海国際能源交易中心、広州期貨交易所が加わり6市場体制となっている。
 大連取(DCE)で粳米(ジャポニカ米)が上場されたのは2019年8月で、中国内でのジャポニカ米主要生産地は東北三省(遼寧、吉林、黒竜江)で、大連コメ市場は概ね順調な取引とされている。
 取引単位は10㌧で、上場初月の19年8月に23万3,580枚(233万5,800㌧)だった出来高が、直近の23年8月には47万6,363枚(476万3,630㌧)まで膨らんでいることを引き合いに「標準品はシンプルなものがいい」との自説を述べた。なおDCE全体(2022年)では出来高23億枚、取引高124兆元で世界のデリバティブ取引所で第9位にランクされた。

(Futures Tribune 2023年10月18日発行・第3246号掲載)
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