試験上場制度で広がった上場商品
国際化見据え1990 年導入、上場商品の多様化実現

2023-09-29

 商品先物取引に試験上場制度が導入されたのは1990年(平成2)12月、改正商品取引所法が施行されてからである。この時は商品先物市場の国際化を基本理念に据え、試験上場制度の他、オプション取引の導入、自主規制団体の設立、委託者資産の完全分離保管、外国企業への会員権開放(当時の商品取引所は株式会社化されておらず会員制だった)など、現在に繋がる市場設計の下地が敷かれた非常に大規模な法改正であった。上場商品の多様化を目的に導入された試験上場制度だが、今回は制度導入の経緯や商品を振り返る。


 まず試験上場制度が導入された背景には、国内商品先物市場において新規商品上場のハードルが非常に高かったことが挙げられる。最大の要因は先物取引に対する当業者の消極的な姿勢で、推進派と反対派で議論が硬直化するのが常であった。
 実際、90年2月の商品取引所審議会では法改正に関する答申の中で「わが国の商品先物市場は上場商品が少なく、世界的に未だローカル市場だ。また商品の上場では経済的ニーズがあるのに、機動的な上場が難しい」との指摘があった。
 当時全国には商品取引所が16カ所存在したが、そのうち農水省の管轄商品を取り扱う取引所は12カ所あった。だがそのほとんどは長らく新規商品の上場がなく、かつての主役であった穀物や繊維の先物は低迷し、粗糖だけが何とか流動性を確保している状態であった。これに対し通産省(現・経産省)が管轄する東京工業品取引所では82年(昭和57)3月に金、84年(同59)1月に銀および白金を上場して以来成長を続け取引シェアで国内トップとなっており、商品先物は完全に貴金属主導の流れへとシフトしていた。
 つまり市場規模の拡大と発展には、新規商品を次々と上場させることが必要不可欠との認識が業界関係者には共有されていたのである。
 一方で先物取引に懐疑的な当業者が新規上場を阻む足枷とされ、実際アルミニウム、鶏卵、豚肉、コーヒーなど、後に国内商先市場で上場した商品もあるが、当時は研究段階で当業者から反対の声が上がり議論が停滞していた。
 だがここでアメリカで採用されていた、商品を円滑かつ迅速に上場できる試験上場制度に白羽の矢が立った。アメリカなど先物取引が活発な国では、先物市場への新規上場は基本的に当業者への説明や説得は行われるが、商品については生産者・流通業者・消費者・投資家に至るまで等しく価格変動リスクに晒されているとの見方があり、比較的に短期間で認可される傾向にあった。
 試験上場制度が初めて運用された商品は、東京穀物商品取引所および関門商品取引所のとうもろこしと、東京工業品取引所のパラジウムで、91年(平成3)10月の商取審で了承された。試験上場には延長制度があり、2年もしくは3年間の取引期間中、本上場実現が困難と取引所が判断した場合など、主務省に期間延長の申請をすることができる。
 以下、制度適用後の試験上場商品と、本上場実現の可否を掲載する。

【とうもろこし(東穀取)】
試験上場開始(1992年4月20日) →本上場達成(1994年4月5日)
【とうもろこし(関門取)】
試験上場開始(1992年5月1日) →本上場実現せず廃止
【パラジウム(東工取)】
試験上場開始(1992年8月3日) →本上場達成(1994年8月22日)
【アルミ地金(東工取)】
試験上場開始(1997年4月7日) →本上場達成(2000年4月3日)
【アルミ地金(大阪取)】
試験上場開始(1997年10月1日) →本上場達成(2000年10月1日)
【アラビカコーヒー生豆、ロブスタコーヒー生豆(東穀取)】
試験上場開始(1998年6月16日) →本上場達成(2000年7月3日)
【国際穀物等指数(関西取)】
取引開始(1998年8月3日) →本上場達成(日時不明)
【鶏卵(中部取)】
試験上場開始(1999年11月1日) →詳細不明
【ブロイラー(関門取)】
試験上場開始(1999年11月1日) →試験上場延長(2002年) →試験上場延長(2005年9月28日) →本上場実現せず廃止
【ガソリン・灯油(東工取)】
試験上場開始(1999年7月5日) →本上場達成(2004年7月1日)
【ガソリン・灯油(中部取)】
試験上場開始(2000年1月12日) →本上場達成(2004年7月1日)
【TSR20ゴム(大阪取)】
試験上場開始(2000年6月28日) →詳細不明
【大豆ミール(東穀取)】
試験上場開始(2001年10月11日) →試験上場延長(2004年7月15日) →本上場実現せず廃止
【食用馬鈴薯(横浜取)】
試験上場開始(2001年5月10日) →本上場達成(2004年5月)
【コーヒー指数(関西取)】
試験上場開始(2001年8月1日) →本上場達成(日時不明)
【原油(東工取)】
試験上場開始(2001年9月10日) →本上場達成(2004年7月1日)
【冷凍えび(関西取)】
試験上場開始(2002年6月17日) →本上場達成(日時不明)
【大豆ミール(福岡取)】
試験上場開始(2002年7月1日) →詳細不明
【軽油(東工取)】
試験上場開始(2003年9月8日) →本上場達成(2004年7月1日)
【軽油(中部取)】
試験上場開始(2004年1月9日) →詳細不明
【野菜バスケット(横浜取)】
試験上場開始(2004年12月20日) →本上場実現せず廃止
【鉄スクラップ(中大取)】
試験上場開始(2005年10月11日) →試験上場延長(2008年10月) →本上場実現せず廃止
【コメ(東穀取)】
試験上場開始(2011年8月8日) →取引所の解散により堂島取へ移管(2013 年2月12日)
【コメ(関西取→堂島取)】
試験上場開始(2011年8月8日) →4度の試験上場延長を経て2021年8月6日本上場不認可)

(Futures Tribune 2023年9月26日発行・第3242号掲載)
先物業界関連ニュースに戻る