コメ先物試験上場開始から本上場申請不認可まで・上

2023-09-08

日本穀物検定協会塩川白良理事長

 農政調査委員会は8月4日、第2回農産物市場問題研究会を開催し「今後の米取引、価格形成をめぐって」をテーマに、福岡農産の中島良一社長と日本穀物検定協会の塩川白良理事長が講演した。中島氏は全国米穀工業協同組合の前理事長で、自身が導入した画像取引について「席上取引の現状と課題」を演題に解説し、農水省出身の塩川氏は自身が関わったコメ先物の監督行政について、その経緯などを振り返った。今回は塩川氏の講演を要約しつつ、再び市場復活に向け動き出したコメ先物が試験上場開始から本上場申請が不認可とされるまでを振り返ってみたい(文中資料等の文責は本紙)。


 私は農水省時代、最後に食料産業局にいましたが、その時に大阪堂島商品取引所(現・堂島取引所、以下堂島取で統一)が試験上場していたコメ先物の4回目の延長申請に関わりました。
 商品先物取引法では本上場の条件として、①十分な取引量が見込まれること、②生産及び流通を円滑にするため必要かつ適当であることの2点が定められています。
 一方、試験上場の認可要件は、①十分な取引量が見込まれないこと、②生産及び流通に著しい支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあることに該当しないことと、条件がひっくり返っているわけです。
 裏返して考えると、試験上場の場合は取引量が少量でなければ大丈夫と読めます。
 コメ先物は2005年12月、最初の試験上場認可申請があり、当時自民党政権下でしたが、その時は申請が却下されました。その後2011年、民主党政権下で再度コメ先物の試験上場申請が行われ最終的に認可されましたが、野党であった自民党からコメ先物に反対する申入れ(※下記参照)がありました。

  • 米の先物取引は、国民食糧の基軸である米農政に大きな影響を与える重大な問題にも関わらず政府からの十分な説明もなく、国会においてこれまで十分な議論がなされていない
  • 我が国独自の多種多様な米の生産と流通に馴染まず、生産者や団体も強く反対しており、関係者の合意を得ての取組になっていない
  • 国が主食である米の需給と価格の安定に責任を持つ、という食糧法の下で、先物取引の実施は法の趣旨に合わない
  • 米の戸別所得補償制度は、法律がないうえ予算の確保面でも保証がなく、戸別所得補償の実施を先物取引実施の論拠にはできない(以上)

 コメ先物は2011年8月に試験上場の取引が開始(※東京穀物商品取引所と関西商品取引所(現・堂島取引所)でほぼ同時に開始)されましたが、2013年に3カ所あった国内の商品取引所が2カ所に再編され、東穀取のトウモロコシや大豆などを東京商品取引所に移管、コメだけは堂島取に移管しました(※東穀取は解散となる)。
 そして2013年7月に堂島取はコメ先物について2年間の試験上場延長申請をしています。政府は申請を認可しておりますが、留意事項(※下記参照)も付けています。

[米の先物取引の試験上場に当たっての留意事項について(2013年8月7日)(※資料)]
  • 試験上場は市場の成長性を見定める制度であり、際限なく延長を認めることは、制度の趣旨に合致しないものと考えられる。
     このため、市場をめぐる状況に特別の事情がないことを前提に、仮に米の試験上場の再延長申請があった場合には、これまでの実績を上回るものであるかどうか、取引参加者の多様化が図られているかどうかに加えて、過去に本上場に移行した商品の取引水準を判断の要素とすることを基本とする。(以上)

 その後2014年以降コメ先物は標準品の入れ替えなどを行い、2015年に試験上場の期限が来たわけですが、再び2年間の試験上場延長申請が行われております。
 その時も政府は申請を認可しましたが、同じように留意事項(※下記参照)を付けました。

[米の先物取引の試験上場に当たっての留意事項について(2015年8月6日)(※資料)]
  • 試験上場は、市場の成長性を見定める制度であり、際限なく延長を認めることは、制度の趣旨に合致しないものである。これまで農産物先物市場の試験上場で3回以上延長された事例がないことについて、十分に留意すること。
     一方、将来的に米の本上場申請が行われた場合には、法律上の認可基準を厳正に運用することとし、生産者や集荷業者等の幅広い参加を得ながら、安定取引の拡大といった今後の米政策の方向にも沿ったものとなっているかどうか、また、取引の公正を確保し、委託者を保護するために十分であるかどうか等についてゼロベースで検証を行うこととする。
     また、試験上場期間中の取引について、常時、市場の監視・監督を行うとともに、異常な価格変動が生じ、米の生産・流通へ著しい支障を及ぼすおそれがある場合には、取引の制限等の措置を適時適切に講じることを申し添える。(以上)

<以下、後半に続く>

(Futures Tribune 2023年8月18日発行・第3233号掲載)
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