現物・先渡し・先物を一取引所で
渡辺好明・元東穀取社長、コメ市場を語る

市場整備遅れると海外に価格決定の主導権

2023-02-10
元東穀取社長、渡辺好明氏

 2007年から11年まで東京穀物商品取引所の理事長および社長を務めた渡辺好明氏が3日、農政調査委員会が開催した米産業談話会で講演し 「(コメについて)ひとつの取引所で現物・先渡し・先物すべてをやるべきだ」との考えを示した。さらに穀物の国際貿易においてシカゴ商品先物市場がどのように利用されているかなどを紹介し、日本のコメについても早急に市場整備を進めないと、近い将来「シカゴや大連にコメ価格の主導権を握られてしまう」と危機感を訴えた。渡辺氏は農水事務次官退官後に先物業界へ移りコメ先物市場を創設した当事者で、現在新潟食料農業大の学長を務める。


 第4回目の談話会は「米に市場は必要か」がテーマで、米卸業者や農産物のマッチング業者、元農水省局長がシンポジウム形式で話を進めた。だが講師以外にもコメ農家や当業者ら参加者も積極的にマイクを持ち、市場の必要性を強調する意見が目立った。渡辺氏の見解は会の後半、司会にマイクを向けられ市場について語ったものだが、先物市場のみにスポットを当てたわけではなく、現物・先渡し・先物の各市場をそれぞれ機能させることが重要だと述べている。
 渡辺氏は市場の機能について、①集荷・分荷、②価格形成、③需給調整、④(一時的)保管、⑤保険、⑥金融、⑦情報、⑧その他(加工、運送、資産形成など)―と8項目を挙げており、これらを3市場が分担し各々が役割を果たせば理想的な市場環境となる。
 だがコメについては、農水主導で現物市場の整備は進んでいるものの、先物市場は2021年8月に本上場申請が不認可とされ、再興するにもハードルが高いのが現実だ。
 それでも渡辺氏は中粒種および短粒種米について、環太平洋でほとんど市場が一元化されつつある現状を指摘し、日本のコメ産業に警鐘を鳴らしている。理由は前記3市場の整備を早急に進めないと、コメ価格の主導権を他国に奪われることになりかねないからである。
 すでに中国の大連商品交易所(DCE)では2019年8月にコメ先物市場を開設しており、堂島取引所でコメ先物が試験上場されていた2021年当時でも、日本の50倍近い取引量があった。
 今では海外の穀物業者が来日して日本米の情報収集に取り掛かっているとされる。コメは日本人にとって、主食の域を超え信仰にまで影響が及ぶ重要な品目である。日本のコメ価格が海外で決まるようになったら、毀損される国益は計り知れないものとなる。

(Futures Tribune 2023年2月7日発行・第3195号掲載)
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