驚愕の大臣会見、コメ不認可は出来レースだったのか?

2023-01-11
野村農林水産大臣

 新年早々、脱力するような話題を出したくはないが、農水大臣の驚くべき会見を取り上げないわけにもいかない。11月29日、野村哲郎農水大臣の定例会見において、記者との質疑応答がとんでもない内容であった。先物取引に対する不見識が露呈し、2021年8月のコメ先物不認可は出来レースだったと取れるようなコメントまで飛び出した。
 もともと野村大臣は、コメ先物に対し反対の立ち位置を取っていたとされるが、ここまでめちゃくちゃな内容だと驚愕するほかない。以下で、質疑応答を検証してみたい(出典は農水省大臣会見サイト、コメ先物に関する部分のみを抜粋した。注は本紙が挿入、段落変えも見やすいように本紙が行った)。


 記者: 大きく2点ありまして1点ずつお伺いできればと思うんですけれども、1点目が米の現物市場についてです。先週金曜日の自民党の部会で農水省は新しい方針として、開設時期であるとか運営主体について説明されましたけれども、開設に向けた期待などありましたら教えてください。

 野村大臣:  米の取引につきましては、御承知のように先物取引というのが以前ありました。大阪の堂島(取引所)がやっていたんですが、これについて今までは暫定的に(試験上場という形で)認めていたんですけど、昨年をもって打ち切りました。
 それはなぜかというと、(※1)先物というのはやっぱり投機性があると。(※2)主食である米に対して投機的な相場形成というのはいかがなものかというのが自民党内からも相当出てまいりまして、(※3)農水省としても今まで仮免みたいなものを与えていたんですが、それを打ち切った経過があります。

検証

(※1)先物というのはやっぱり投機性がある
⇒先物取引自体を問題視するコメントだが、商品先物取引は「商品先物取引法」(2011年1月1日施行)で国家が認可している市場取引であり、以下の3つの機能が認められている。
①価格変動リスクのヘッジ機能
②資産運用機能
③透明で公正な価格の形成・発信機能

(※2)米に対して投機的な相場形成というのはいかがなものかというのが自民党内からも相当出てまいりまして
⇒農水省の自民党農林部会提出資料(令和元年)では以下の記載がある。
①利用者を対象とした意見聴取の結果によれば、コメ生産者の8割弱は先物市場に対し経営安定上有効と評価し、9割強は今後も利用意向があると回答
②生産者および流通業者は、販売先又は価格変動リスクの軽減等に先物取引を活用し、その98%は先物価格があることで自らの事業等に支障はなかったと回答
つまり、先物取引によってコメ価格が乱高下する、または生産者や流通業者に実害を及ぼした例はない。

(※3)農水省としても今まで仮免みたいなものを与えていたんですが、それを打ち切った経過があります
⇒商品先物市場について新規商品本上場の認否基準は以下の2点である。
①十分な取引量が見込まれること
②生産・流通を円滑にするために必要かつ適当であること
 農水省は①を満たしていると評価しつつも、②について当業者の参加数・利用意向の2点が十分でないことを不認可理由としている。
 だが、下記のように堂島取引所のコメ先物に参加する生産者数は10年間一貫して増加し、流通業者数も安定した水準を維持していた。
※受託取引参加者へのヒアリング調査結果
平成25年時点  2,486口座(うち当業者93口座)
令和3年時点  3,609口座(うち当業者249口座)
 つまり、コメ先物取引は本上場への認可基準を満たしていたと考えるのが妥当である。

 野村大臣: その代わり、現物(市場)で先物取引の投機的なものではなくて、生産者なり、あるいは流通業者なり、こういう人々を集めた現物の取引をしていけばいいのではないかということで、1年以上かけて農水省内で検討をしてまいりましたが、いよいよその方向がおおよそ固まってきたということでございまして、令和5年1月に情報共有の場を開始するとともに、5年3月には、公益財団法人流通経済研究所から現物市場の事業運営方法を開示いただき、5年秋の取引開始に備えることといたしております。
 今後生産者側から販売価格を提示したいといった課題に応えつつ、需給動向を反映した価格指標が示される市場ができることを期待いたしているところでございます。

 記者: 先ほどの幹事社の質問に対してのお答えで確認させていただきたいんですけれども、米の先物市場のところで、去年、議論を打ち切り、議論というか、打ち切ったというふうな発言をされたんですけれども、真意をちょっと伺いたいんですけれども。
 先物市場の設置自体の議論を打ち切ったという意味なのか、私の受け取りとしては、本上場申請の可否について判断して去年は認めなかったという理解でいるんですけど、その辺の違いちょっと違うというか、考え方をちょっと伺えればと思います。

 野村大臣: 米の先物取引は、東京と、それから大阪の2ヶ所でやっていたんですが、東京の方はもう御存知のように東京市場が閉めてしまって、そしてそれを大阪の堂島(取引所)に移したんですよ。それで、(※4)東京の方からまず最初、米の先物の取引をやりたいというような申請が上がってきたんですが、様子を見ましょうよということで、実績を4年か、5年間ぐらい見たんですけれど、取引が非常に少ないんです。最初は、これが市場形成を、米の相場を形作っていくのではないかと、こういうような期待も少しあったんですけども、ほとんどと言っていいぐらい実績が出ませんでした。
 その後(※5)堂島に移ってからも、もう少しその実績を見させてくれということで、堂島に移って2年間ぐらい、そのまんま、いわば仮免許、仮の免許を与えていたんですが、これも伸びなかったということで、もういいじゃないかと、内部からも、いつまでこんなことをやらせるんだというのがありましたものですから、農水省としては、これに対する仮免も取り上げたということでございます。

検証

(※4)東京の方からまず最初、米の先物の取引をやりたいというような申請が上がってきたんですが、様子を見ましょうよということで、実績を4年か、5年間ぐらい見たんですけれど
⇒東京穀物商品取引所は2013年2月にコメ先物市場を移管している。試験上場の開始は2011年8月なので、実質1年6カ月で、「4年か、5年間ぐらい」というのは間違いである

(※5)堂島に移って2年間ぐらい、そのまんま、いわば仮免許、仮の免許を与えていたんですが、これも伸びなかったということで、
⇒コメ先物が堂島取引所に移ってから本上場申請不認可となるまでに8年6カ月かかっており、「2年間ぐらい」というのは間違いである

 記者: そうすると先物市場の設置自体も議論しないということになるんでしょうか。仮に上場申請されたとしても受けないということなんでしょうか。

 野村大臣: 一回申請が上がってきて、様子を5年間ぐらい見たんだけれども、皆さんも御存知のように、小豆の先物取引で北海道の皆さんが大変大損をしたというのがマスコミにも出たことがあって、やはりこの先物取引に対する不信感というのがやっぱりあるのではないかと。
 これは私はやったことがないから分からないんですけど、要は先物取引。ただ、アメリカなんかは小麦だとかいろんなものが先物取引で3ヶ月先の取引が行われておりますけど、日本ではやっぱりまだ定着してなかったと。
 あんまり理解されてなかったということではないかなと思うんですが、ならば、それに代わるものとして、米の(現物の)相場を作っていく。あんまり理解されてなかったということではないかなと思うんですが、ならば、それに代わるものとして、米の(現物の)相場を作っていく。
(※6)現物ならば相対で取引していくわけですから、そういう透明性の高いものをやったらどうかということで、この1年間ぐらい検討を内部でやってきたということで、これがうまくいくのではないかというふうに思っております。

検証

(※6)現物ならば相対で取引していくわけですから、そういう透明性の高いものをやったらどうか
⇒相対取引であれば透明性が高いとの意見だが、例えばネットオークションもメルカリも、現物の相対取引である。ところが
①購入した商品が届かない
②代金が支払われない
③ブランド品の偽物が届く
などのトラブルが数多く発生している。
これらは相対取引であるからこそ起こり得るもので、取引所を通じた市場取引であれば、
Ⅰ.市場の実物取得機能により、総代金を払えば確実に現物が手に入る
Ⅱ.取引所を介した取引であれば取引先の与信判断は不要で、代金未回収のリスクはない
Ⅲ.農産物検査法に基づくコメであり、品質に対する心配もいらない
など、取引所の市場取引を介することで相対の危険性を排除し、取引の安全性が格段に向上する。
 そもそも相対取引で価格の透明性が担保されないから現物市場を整備するのであって、現物市場を作る中で相対取引が透明性が高いと言っているのは支離滅裂である。

 野村大臣: それはなぜそんなこと言うかというと、昨年の米の価格は、実は私の地元のところなんですが、(※7)鹿児島が一番早いんです。早期米で。それでここの価格を出すときに、どのぐらいの価格で出したら農家の皆さん方にも、あるいは世間的にもいいかなということで、大変鹿児島の経済連の皆さん苦しんだんですよ。

検証

(※7)鹿児島が一番早いんです。早期米で。それでここの価格を出すときに、どのぐらいの価格で出したら農家の皆さん方にも、あるいは世間的にもいいかなということで、大変鹿児島の経済連の皆さん苦しんだんですよ
⇒コメは播種時には収穫時の価格が分からないため、先物市場がない状態では生産者自身が将来の価格や収穫量を予想し、価格変動リスクを覚悟のうえで注文する種の数量を決めることになる。だが、コメ先物市場があれば1年先までの公正・透明な指標価格が提示されているので、これを参考に計画を立てたり、売りヘッジをするなどの対策が可能である

 野村大臣: 一挙に下げてしまうとこれが(全国の)相場感になってしまって全国の米が下がってしまう。あるいは、下げ方についてもどのぐらいの幅なのかというのも大変苦労した経過がありまして、私も相談を受けていたんですけれど、なかなかいくらというのは言いきれなくて、ただ売り込みが3000円下げたとか、あるいは1000円下げたとか、いろんな方々がそういうような形で、鹿児島の方に米の買いに入ったんだけれども、どのぐらいならばいいのかという相場感がないんですよ。
 だから現物取引だと相場がある程度できてくるから、そういうことをやったらどうかということで、まずは検討してみてくれと農水省に宿題を出して、そしてこの1年がかりでやっておりましたら、先ほど言ったようなことで、おおよそやれるんじゃないかと。これは流通業者それから生産者側も入って、そこの中で、どのぐらいの価格ならば、あるいはどこの銘柄だったらこのぐらいならばやれるよというのが、明らかになってくるのではないかと、こんなふうに思ってやっているところでございまして、今後、私は大いに期待したいと思っております。

検証
⇒コメント全体を通じ、記者の質問「仮に上場申請されたとしても受けないということなんでしょうか。」の回答になっていない

【結論】
 野村大臣の発言を聞く限り、試験上場の基準を達成しようがしまいが、先物は認めないと自民党では決めていたような印象を受ける。
 この10年間、何のために業界を上げて試験上場に取り組んできたのか。また、商品先物取引法に基づく試験上場とは何だったのか、法治国家であり資本経済の中枢を担う我が国において甚だ遺憾と言わざるを得ない。
 ましてや、堂島取引所は農林水産大臣の許認可による商品先物取引所である。大臣が法律すら無視するようなことを公の場で発信し、認可・不認可の問題ではないという理不尽さが付け加えられた。
 全体を通じ先物取引に対する誤った発言であり、日本商品先物振興協会は抗議声明を出してもいいくらいである。
 また、果たして本当に自民党がこのような考え方で試験上場にピリオドを打ったのか、改めて確認せざるを得なくなったといえるだろう。

出典:農水省会見発表サイト
(Futures Tribune 2023年1月01日発行・第3188号掲載)
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