コメ先物、廃止する正当な理由があったのか?【2】
農水省のありえない手の平返し、背景に何があったか?
試験上場第Ⅴ期となった2019年8月からの2年間、堂島取は農水省と歩調を合わせコメ先物本上場へ協力体制を敷いてきた。農水省は堂島取の営業責任者懇談会にも出席し、産地セミナーにも同行して生産者や当業者の意見に直接耳を傾けた。いずれもⅣ期までには見られなかったことで、これらの協調路線が堂島取の受託会員に一筋の希望を与えていたことは間違いない。
2017年8月に始まった試験上場第Ⅳ期は、期間の半分を消化してもコメ先物が盛り上がる気配はなかった。要因のひとつに、当時農水省と堂島取の関係が悪化していたことが挙げられる。農水省は福井逸人室長(当時)が積極的にコメ先物を各地のJAにPRするなどしていたが、意思疎通が嚙み合っておらず互いに空回りするだけで結果に結びついていなかった。
こうした状況が改善したのは2019年2月、福井室長がSBIホールディングスの重光達雄氏(後の大阪堂島商品取引所・経営改革協議会副議長)と面談し、コメ先物に対するSBIの全面バックアップを取り付けてからである。「もしSBI証券が堂島取に参加したら一気に市場が変わる」(商品先物業者)とSBIに対する期待感が高まり、業界内で堂島取への注目が高まっていった。
折しも東京商品取引所が日本取引所グループ(JPX)傘下に入り、総合取引所としてスタートを切ることで世間的には注目を集めていたが、業界内では「急に出来高が増えるわけでもないだろう」と冷ややかな見方も多かった。実際総合取は発足後1年が経過したが、商品先物に新たな参加者が大幅に増える結果には繋がらず、取引も低迷が続いている。
こうした中、2021年10月に公表された堂島取の経営改革協議会による最終提言は、商品先物業界の期待を集めるには十分だった。「このとおりに進んでいけば大化けするのではないか」(商品先物業者首脳)と堂島取に協力しようというムードが醸成されていった。協議会委員でもあり、元金融担当相の中塚一宏氏が株式会社化後の初代社長に就任したことで、「政治的な対応にも通じているし心強い」(同)と歓迎する声が多かったことは、株式会社化後のコメ出来高が如実に物語っている。
だが、今回不意打ちを受けるような形でコメ先物が不認可とされた。こんな手の平返しは商品先物業界において過去にも見られない。
コメ先物不認可の正当性は?急遽設定された意見聴取
堂島取のコメ先物市場は、試験上場のまま姿を消すこととなった。試験上場はと、本上場の前に一定期間を区切って試験的に上場し取引を行うことで、先物市場の機能や生産・流通への影響などを検証する目的で実施される。これは主務大臣、つまりコメの場合は農水大臣の認可を受けて初めて可能となるもので、運転免許で例えると仮免の状態に相当する。試験上場の末に本上場の認可申請、又は本上場申請の取り止めによる廃止、あるいは試験上場の延長という三択のいずれかへ進むことになる。
平成以降、農産物ではトウモロコシ、アラビカコーヒー、鶏卵などが試験上場から本上場へ移行したが、ブロイラー、食用ばれいしょ(ジャガイモ)、大豆ミール(大豆粕)など本上場申請をせずにそのまま取り止めになった商品もある。コメも残念ながらそうなってしまった。
コメに限らず商品先物の試験上場期間は2年間だが、2013年に試験上場の延長、2015年に再延長、次いで2017年、2019年にもそれぞれ試験上場延長の申請という形であった。つまり今回まで本上場申請に至っていないが、2017年のケースは一旦本上場申請に踏み切ったものの、直後に申請を引っ込めて試験上場申請に差し替えている。
試験上場の認可基準は①十分な取引量が見込まれないことに該当しない、②生産・流通に著しい支障を及ぼすおそれがあることに該当しない―というもので、これが本上場の認可基準では①十分な取引量が見込まれる、②生産・流通を円滑にするために必要かつ適当―に変わる。いわば試験上場は加点方式、本上場は減点方式で合否が決まる。
本上場の申請は農水省と協議の上で2021年7月16日に行われた。この時点では関係者皆が本上場達成を疑っていなかった。それが11日後の27日に急遽農水省から意見聴取開催の通知が届いたのである。
(Futures Tribune 2021年8月10日発行・第3088号掲載)
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