コメ先物、廃止する正当な理由があったのか?【1】

大阪堂島

 農林水産省は2021年8月6日、大阪堂島商品取引所(現・堂島取引所)が認可申請していたコメ先物市場の本上場に対し認可しないことを決め公表した。生産者数や流通業者の数が依然伸び悩んでいることなどが不認可の理由としている。これにより2011年8月に試験上場を開始し、2年ごとの試験上場延長申請を経て5度目の延長となっていた日本で唯一のコメ先物市場は廃止となり、すでに成立している限月が終了する2022年6月で事実上その機能を終える。堂島取にとって大部分の収益源が失われる形となるが、同時にシステム経費なども大幅に削減されるとして、中塚一宏社長(当時)は記者会見で「経営に与える影響は極めて軽微」と語っていた。


生産者・流通業者数は増えている、農林部会申入れの矛盾

 2021年8月4日に開かれた自民党農林部会で、「米先物取引の本上場申請に関する申入れ(案)」と題する要請が農水省に対し行われた。
 原文によると①『今回の本上場申請に対しては、法律の要件に照らして厳正に判断すること。その際、先物市場に参加している生産者数・流通業者数が依然伸び悩み、先物取引利用の意向が低い、取り引きの九割が新潟コシヒカリに偏っている状況を十分に踏まえて慎重に判断すること』、②『米の現物市場については、米の需給実態に応じた価格形成を促し、農業者の経営に資するため、JAグループを始め集荷業者、卸売業者等、関係者が参加できる現物取引市場を創設することを旨とし、その創設に向けて、農林水産省がJAグループを始め関係者による検討会を速やかに設置し、検討会において本年度内を目途に制度設計について検討すること』―という2項目が記された。

 農林部会開催のおよそ半月前7月16日に堂島取は農水省にコメ本上場の認可申請を行ったが、27日に「本上場要件を満たしていない」として意見聴取を実施する旨を堂島取に伝えた。意見聴取は8月5日に農水省内で実施されたわけだが、その前日ギリギリのタイミングで農林部会から前述の申入れがなされたわけである。
 意見聴取は議論の場ではなく、堂島取の反論を聞くだけの会合という位置付けで、農水省からは商品先物取引を管轄する大臣官房新事業・食品産業部新事業・食品産業政策課の長野麻子課長、三浦那帆課長補佐、渡邉泰輔商品取引室長が出席した。この時点で不認可の流れを覆すことはほぼ不可能ではあったが、それでも堂島取が示した数字は農林部会の申入れに対する矛盾を指摘した。

 これまでの試験上場期間10年を2年ごとに第Ⅰ期~Ⅴ期に分けると、コメ先物に参加した生産者数・流通業者数は、Ⅰ期(生産者2・流通業者83)、Ⅱ期(同11・同128)、Ⅲ期(同31・同119)、Ⅳ期(同62・同99)、Ⅴ期(同66・同102)と、生産者数は一貫して増加しており、流通業者も安定した水準を維持していることが見て取れる。
 しかも審査対象となる直近のⅤ期(2019年8月~2021年7月)は累積数ではなく、Ⅳ期までの数字をリセットして1から集計したものであり、微増ではなく倍増といっても差し支えない。
 さらに堂島取が受託取引参加者にヒアリングしたところ、2013年時点で2,486口座(うち当業者93口座)だった市場規模が、2021年には3,609口座(同249口座)と膨らんでいる。
 また建玉ベースでみても主力の新潟コシでは当業者の占める割合は約5割に達していることから、価格変動リスクを回避するために先物市場を利用する当業者が増加傾向にあることを示唆していると言えるだろう。

 コメの現物受渡し機能においても、2021年6月末までの実績で3734㌧のコメが受渡しされており、2019年6月末の13,846㌧と比較すると2倍以上の実績を示している。
 何より現場からの声も、2021年6月のコメ主要産地セミナーで開催した各地の座談会でコメ先物市場について必要性を訴えるものが目立った。例えば「生産者は現物の販売先として、集荷業者や販売業者などの流通業者は販売先・仕入先として先物取引を活用している」、「清算機能が確立されているため、与信管理を気にせずコメの取引ができることは大きなメリットだ」、「播種前に新米価格を先取りした集荷業者は、先物価格をベースにした現物契約を生産者と締結することで、収穫前に粗利を確定させている」、「合意早受渡しは、受渡し当事者が合意した内容で受渡しができるため、かなり利便性の高い受渡し方法だと思っている」といった意見が寄せられている。

(Futures Tribune 2021年8月10日発行・第3088号掲載)

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