商先市場縮小の中で高まった取引システム共有化議論【2】
2023-10-16かつての東穀取立会場
東穀取の意向、会員経営陣に浸透せず
東穀取が直面するシステム問題は、①コメ先物取引用に準備されたザラバの新システムをどうするか、②現行システムの後継をどうするか―という2点である。
①はコメ先物が不認可となったことで新ザラバシステムを「当面休止」として維持費だけを払い続けるか、「既存の上場商品をザラバに移行して使用」という二択の手段があった。休止措置の場合、すでに設備投資した会員に対する責任問題が浮上する。既存商品をザラバ化するにしても、会員からコンセンサスが得られておらず、その見通しも立っていなかった。
②は耐用年数の限度が近づいていた現行システムについて、新ザラバシステムを使用するという対応が考えられた。ザラバシステムではあるが板寄せにも対応可能であり、十分に現実的な話であった。だが、板寄せとして使用するためには追加投資が必要になる。
こうした過程で東穀取は、会員に対し度々説明会を開き理解を求めてきたが、経営上層部までは理解が浸透していかなかった。その結果「東京穀物商品取引所のザラバ・システム開発の是非」と題する怪文書が出回り始めた。長年にわたって赤字を計上していたパット・システムズ・ジャパンにシステム設計及び開発を依頼したのは東穀取経営陣の責任であるとして、業者決定までの不透明なプロセスを糾弾する内容であった。
実際公共機関の入札では、財務の健全性が選定の条件になるといわれている。
東穀・中部両システムの相違点は中継端末の取り付け箇所
一方、中部取は選択肢を板寄せ仕法の新システムに絞っていた。将来に備えてザラバ機能の布設が可能としているが、どちらの仕法においてもコストや性能など議論の対象が明確であった。
先物協会が両取に対してシステムの共有化について検討を要請したのは、歯止めがかからない出来高減少に伴う商先業者の財務基盤の弱体化が背景にあった。このため議論の焦点はどうしてもコスト部分に集中せざるを得ない。だが同問題では①東穀取の場合どの取引仕法に対応したシステムを対象に中部取とシステムを共有化するのか、②システムのベースソフトでオープン型かパッケージ型のどちらが将来設計において業界のためにベターか、③ISV(独立系ソフトウエアベンダー)対応などで中継端末を取引所システムに組み込むのか外付けとするのか―といった基本的な方針で的確な判断が問われた。
システムの基本ソフトであるオペレーティングシステム(OS)には、大別してオープン型とパッケージ型がある。オープン型はシステム開発者がOSやアプリケーションソフトの外部仕様を公開しているので、特定のメーカーや規格に依存せず、いろいろなソフトやハードを自由に組み合わせてコンピュータシステムを構築することができる。このため、ソースコード(プログラム)が公開されているソフトは検収(テスト)が不特定多数のユーザーによって行われていることから、不具合箇所の特定がパッケージ型に比べて容易で、価格も安価であることが多い。
ただシステム構成では東穀取、中部取で仕様が異なり、大きな相違点は中継端末を取引所システムに内蔵しているかいないかという部分にあった。東穀取は中継端末を切り離した外付けタイプで、中部取はこの機能を取引所システムに内蔵していた。内蔵型は東工取システムと同様で、コスト的には取引所の開発コストが外付けに比べ割高になるが、会員にとっては逆に割安となる。また中部取は開発コストをオープンシステムにするなどの対応でコストの低減化を図っていた。
つまり、東穀取ザラバシステムは取引所コストを比べると中部取より安いが、取引所及び会員(商先業者)負担分を含めた合計コストにおいては、両取引所で大きな差はなかった。
ランニングコストで顕著な差が
当時のコストを比較すると、東穀取では①東穀取取引所負担=開発コスト5億円、別仕法追加1億円(※)、ランニングコスト1~2億円、②東穀取会員負担=開発コスト5億円(※)、別仕法追加3.5億円(※)、ランニングコストは1回線月間11万円+1専用端末月間5万円(複数回線設置会員もあり)となっていた(※は当時の本紙推計、別仕法追加とは東穀取ザラバシステムでの板寄せ追加、中部取板寄せシステムでのザラバ追加を指す)。
一方、中部取では③中部取取引所負担=開発コスト8億円、別仕法追加2億円(※)、ランニングコスト1~1.9億円、④中部取会員負担=開発コスト0.7億円強(※)、別仕法追加は若干(※)、ランニングコストは1回線月間6万円強であった。
つまり両取におけるシステムコストの差は、会員のランニングコストにあったのである。その差は会員が複数回線で使用した場合、あるいはISV対応やホームトレードを行うために国際標準仕様のFIXを取り入れた外部中継端末を経由する場合により顕著で、東穀取のコストが中部取よりはるかに高額となった。東穀取が会員のランニングコストを単独または複数の使用形態別に設定したのは、会員に自由度を持たせるためと当時説明していた。
こうした土台で先物協会の議論が進むことになったが、「これ以上の負担は避けてほしい」とする商先業者の声は止まなかった。この観点で言えば、東穀取はすでに約8.9億円の開発費を支払い済みで、中部取は06年9月時点でNTTデータと契約締結には至っていなかった。
あくまで公正な立場で議論を進めるという先物協会ではあったが、両取において当時の会員構成を考えると、有力会員の数、取引所の規模や発言力などで比較した場合すべてにおいて東穀取の方に力があった。
中部取の場合は地域事情を反映した役員構成で、中京地域の取引員や有力企業、学識経験者が主体で、在京の大手受託会員は数社にとどまっていた。つまり在京取引員を中心とする議論の場で、結論は自ずと決まっていたのである。
(以下、次号に続く)
(Futures Tribune 2023年10月10日発行・第3244号掲載)
出典:「東京穀物商品取引所50年史」,2003年3月
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