幻の救世主・商品ファンド物語【3】
ゼロクーポン債不使用のファンド設計、通産省主体で
2023-06-23商品ファンド、証券会社が扱うも売り上げ伸びず
日本が昭和から平成に変わった1989年、商品ファンド黎明期にオリックスが「オリックス・フューチャーズ・ファンド1号」を発売した。ケイマン諸島などのタックスヘイブン地域で組成された同ファンドは、運用もすべて海外で行っていた。オリックス同様の商品設計で、丸紅や日商岩井などが商品ファンドを手 がけたが、大蔵省から待ったがかかった。
大蔵省が問題視したのは、いずれのファンドもゼロクーポン債を過半数組み込んでいた部分で、商品ファンドを証券取引法上の有価証券とみなしたのである。ゼロクーポン債は割引形式で発行される債券のことで、利息(クーポン)の支払いがない代わりに額面金額を下回る価格で購入でき、償還日には額面全額が払い戻しされるため償還差益が得られるというメリットがある。
大蔵省の見解に対しファンド関係者からは異論も出た。90年5月には大手商社で構成する日本貿易会が正式に反論している。だが大蔵省を敵に回すデメリットはファンド組成の自由度とは比較にならず、以後ゼロクーポン債を組み込んだ商品ファンドは設定されなくなった。
一方、大蔵省からお墨付きを与えられた証券会社は90年2月、まず日興証券が商品ファンドに参入する。ただ大蔵省の方針として、保険会社の商品ファンド購入を禁止するなどの足枷がはめられたことで思ったように売れず、証券会社の商品ファンド設定は増えなかった。
通産省が商品ファンドに触手、研究会設置で機運高まる
この時期、商品ファンドについて熱心に研究したのが通産省(現・経産省)であった。商品先物取引に加え商品ファンドも管轄下に置こうと90年2月、「商品等の取引問題研究会」と名目上は総合的な議論の場を省内に設置し、実際は商品ファンドを国内で販売するための手法について研究を進めた。通産省が動いたことで、非証券会社である商品ファンド販売業者から証券取引法に抵触しないスキームの商品ファンドを世に出そうとする機運が確実に高まり始めた。具体的にはゼロクーポン債を扱わず、先物取引のうち金の現先取引を使うもので、まずはオリックス、三菱商事、三井物産、日商岩井、住商リース、日本リースなどが相次いで販売を開始した。
一例としてオリックスが90年に販売したファンドは、金の現先で60%、先物取引で40%を運用するタイプで、当時の日本はバブル期の高金利で現先のサヤが開いていた。このため仮に先物取引で40%損しても現先取引で利益が上がり、7年ほどで元本を確保できたようだ。こうした経済状況も、商品ファンドには追い風になった。
(Futures Tribune 2023年6月13日発行・第3221号掲載)
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