農水肝いりの現物米市場「みらい米市場」とは?

2024-07-24

みらい米市場 折笠俊輔社長

 東京大学経済学部が一般学部生を対象に行う講義「産業事情」において、コメが主題となった10日、現物市場・先物市場それぞれの立場から講義が行われた。現物市場の講師は2023年10月に開設したみらい米市場の折笠俊輔社長、先物市場については元農水事務次官で2011年8月にコメ先物を試験上場した東京穀物商品取引所で当時の社長を務めた渡辺好明・新潟食料産業大学名誉学長が務めた。講師は日本取引所グループ(JPX)の協力で要請した。みらい米市場は2021年8月、堂島取引所によるコメ先物本上場申請を不認可とする際、自民党農林部会がまとめた『米の需給実態に応じた価格形成を促し、農業者の経営に資するため、JA グループを始め集荷業者、卸売業者等、関係者が参加できる現物取引市場を創設することを旨とし、その創設に向けて、農林水産省がJA グループを始め関係者による検討会を速やかに設置し、検討会において本年度内を目途に制度設計について検討すること』との申し入れに沿って開設された。本文は、折笠氏の講義。


 コメに限らず、日本の内需は減少傾向にあります。私が所属する流通経済研究所では2016年、2030年の食料における消費金額の構成比や変化について調査を行いました。
 食料全体でいいますと、30/16年比は▲3.1%(▲はマイナス、以下同)となるが、穀物は▲5.5%となる。穀物の内訳を見ると、30/16年比でパンは▲1.8%、麺類▲3.9%、穀類は▲5.5%に対しコメは▲17.8%と一人負けの状態が予想されています。
 考えてもらえればわかりますが、新規でパン屋が開店することはあっても、新規のコメ屋はほとんどないですよね。食文化が広がった影響でコメ消費が減少していることはあると思います。あと、若い世代ほどコメが流行っていないというか、価値観が下がっているという現実もあります。つまりコメ消費においてはいかに若者のコメ離れを防ぐかが大切です。
 博報堂が行っている「生活定点調査」によると、コメを1日1回は必ず食べたいという消費者は42.8%で、30年間で約30%減少しています。今では半数以上の日本人が無理して毎日コメを食べなくてもいいという結果が出ています。
 ただ同調査の中では好きなメニューもランク付けされていますが、それによるとトップが寿司となっています。
 (筆者注:2位以下は焼肉、カレーライス、ラーメン、刺身、うどん・そば、パスタ、ステーキ、ハンバーグ、みそ汁)
 他の結果と合わせてみると、コメを使う料理は好きなんだけど、コメ自体からは離れているというのが実態のようです。
 一方で消費者の食卓状況を考えた場合、やはり時代によって変わっています。例えば一昔前の地方では大家族が多かったので、自宅での炊飯が一般的で30kgのパックが売れていました。これが家族の人数が減少してくると、5~10kg単位での購入が主体となります。さらに共働きが増えると家事の手間を削減するため無洗米が売れるようになり、今のデータを分析すると1~2kgの少量パックがよく出ています。世田谷区など都内で顕著なのですがこれには理由があり、高齢者が徒歩で買物する場合、5kgでは重すぎるんですね。加えて今ではパックライスの味わいが以前に比べ格段に上がってきたこともあり、単身世帯や共働き世帯も含めパックライスがかなり売れています。コロナ禍による在宅勤務の増加もパックライスにとっては追い風になりました。
 スーパーマーケットでのコメの販売状況は、お客さんが1,000人来たら10.4個売れるという状況です。容量は関係ありません。1商品の平均単価は1,764円ですので、3~5kgのパックと思われます。なお1店舗におけるコメの品揃えは平均31種類で、これはパスタと同程度です。新商品の比率は19.6%、売り上げにおける特売販売の割合は46.4%で、つまり特売だと売れるけど普段は売れないということです。実際消費者は産地、品種ともにそれほどこだわっていないと考えられます。
 コメの規格は昔から一等米、二等米という分け方で、これが今も続いています。ただ今では成分分析や栄養価の比較もできるはずなので、こうした点からの評価や、またコーヒーのように各地のコメを混ぜ合わせたブレンド米は現在の評価基準では価値が下がってしまいますが、こうした点も将来的に考える部分だと認識しています。
 現在はこだわりをもってコメ作りを行っても、それが価格に反映されにくい流通構造になっています。このままではコメ生産の持続可能性の観点から危機感を感じ、ちょうど国で議論されていた現物市場の創設に乗り出しました。生産者が自分で価格を決めて販売できるマーケットを作りたかったというのが目的です。
 実際生産者に話を聞くと、農業をビジネスとしてみた場合一番の問題点は「価格決定権が生産者側にない」という点を指摘しています。コメも農協で決める概算金がだいたいの相場観を作ります。野菜もそうですが、需給バランスを土台に値段が決められてしまうので、生産者がどれだけコストをかけて作ったかという部分は値段に反映されません。このように自分に価格決定権がない場合、ビジネスとして続けるのはかなり苦しいですよね。私がコメの現物市場でやりたかったのは、生産者が自分で価格を決めて販売できるマーケットだったり、あるいは実需の方々が自分のニーズに合ったコメを探して価格交渉の末調達できるといったことです。
 コメ流通の部分に関しては、農水省でコメの現物市場検討会が令和4年に開催されまして、現物市場は必要だとする内容が取りまとめられました。
 それを踏まえて開設したのが「みらい米市場」です。資金については私が所属している流通経済研究所が40%ほど出しまして、システム構築をお願いしたいずみホールディングスさんにも10%持っていただき、残りを金融、コメ産業の皆様に出資いただきジョイントベンチャー的に作りました。資本金は8,000万円です。
 まず目指したのは、コメの品質や付加価値を評価し、取引できるマーケットを創出することです。また、スタートしているものもありますが、実施予定の取り組みでは環境対応米の取扱いで、ホクレンが実施している「みどりの北海道米チャレンジ」を通じて出されたコメの販売を手がけたり、健康訴求の面から医食同源米を東洋ライスさんが勧めていこうとしているのですが、こことも連携を取っています。さらにGAP(農業生産工程管理)に取り組むコメを扱う日本GAP協会とも連携、国が策定した2050年までに国の農地の4分の1ほどを有機にしようとする「みどりの食料システム」と連動し、これら有機米の取扱いも行っていきたいと思います。
 みらい米市場は完全にオンラインとしましたが、これは大きな挑戦でした。コメ業界の場合、各地で取引会が開催されています。対面で集まり、円卓のような会場で売買をする、いわばリアル対面型オークションのような形式です。ただ、コメはある程度溜めておくことが可能で、それを一気に出荷することができます。単価が安いので、輸送回数を減らした方が効率的なのです。例えば新潟の売り物を東京の市場まで運んで買い手が群馬だった場合、群馬~東京の往復分はロスになるわけです。
 こうしたロスをなくすため、我々はオンラインオークション方式を採りました。といえば格好いいですが、はっきり言うとヤフオクとメルカリのシステムを足して2で割りました(市場構成図を参照)。

 売り手側はネットオークションに出品するような形で自分のコメを売りに出せます。買い手側は売り物に入札するわけですが、欲しいコメが明確な場合は、注文情報にそれを記載しておけば売り手側から交渉のメッセージが届く場合もあります。条件提示に基づくやり取りは当事者同士しか閲覧できません。
 決済につきましては「one plat」というフォームを利用しまして、三菱UFJニコスの信販会社を間に入れて、手数料2%ほどで決済可能な仕組みを整えました。
 コメ業界は未だに手書きの伝票とFAXが多かったので、このあたりの受発注はEDI(伝票レス)化ができるようにして、あとは当然、決済・与信についてもヤフオクやメルカリと一緒です。評価システムも同じように導入しています。将来的には市場の売買結果から相場情報も提供できるよう進めていきます。
 みらい米市場は、伸びると予測されるマーケットへの取り組みを重視しています。当初は余剰米をターゲットとし取引数を増やすことを重視していくが、今市場規模が小さい有機米については今後拡大する可能性が高いとみて早めに布石を打つつもりです。こうしたシステムに若年層の生産者はすぐに馴染んでくれるのですが、70代以上の高齢生産者に対しても丁寧に使い方を教えるなど、どぶ板営業も必要かと考えています。

画像:みらい米市場の仕組み 講師資料(農水省作成)
(Futures Tribune 2024年7月16日発行・第3300号掲載)
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