日本のFX取引拡大続く、1,100万口座・証拠金2兆円・取引1京円
2023-05-08<外為白書 2022>
外国為替証拠金取引(FX)店頭業者大手の外為どっとコムの調査機関である外為どっとコム総合研究所は、FX業界における業者数・口座数・証拠金残高などの各種データの推移及び顧客に対して毎月実施したFX投資家アンケートを基にした取引実態調査の結果を公表した。これは同社が毎年発行している「外為白書」(定価2,200円税込)に掲載されているもので、「外国為替市場の包括的な分析書」(竹中平蔵特別研究主幹)という位置づけだ。このたび同白書の第13号が刊行されたが、これをもとに国内FX市場の現状を辿ってみたい。FXは1998年に「外国為替及び外国貿易法」の改正により、外国為替業務が自由化されたことで日本でも取り扱いが始まった。今年で25年目を迎えたFXは、2000年代半ばまでは取引ルールや仕組みにおいて統一性に欠けていたことで委託者トラブルが絶えなかったが、2005年に改正金融先物取引法(金先法)が施行され、登録制に移行したことでFX業者の淘汰が進んだ。2007年には、投資者保護の徹底を目的とした金融商品取引法(金商法)が施行され、金先法は金商法に統合された。2010年には顧客資産の区分管理が義務化され、翌2011年にはレバレッジが最大25倍に引き下げられるなど、投資家保護を主体とした市場環境整備のルール作りが進んでいる。白書の購入は以下のサイトへ。外為どっとコム総研 外為白書
店頭・取引所合計で1,163万口座、4年連続で最高数更新
2022年12月末時点における店頭FXの設定口座(総口座)数は1,053万9,549口座(前年同期比7.2%増)と、依然右肩上がりの状態にある。このうち第3四半期(10―12月、以下第3Q)に取引があった実績口座(稼働口座)数も84万1,475口座(同3.7%増)と拡大した。総口座数に対する稼働口座数の割合は約8.0%で、前年同期の8.3%から減少した。
一方、東京金融取引所が上場する取引所FX「くりっく365」の総口座数も109万2,172口座(同4.5%増)と店頭同様に増加したが、第3Qにおける稼働口座数は1万8,508口座(同5.3%減)で、くりっくの口座稼働率は1.7%で、前年同期の1.9%から減少した。
この結果、店頭FXと公的な取引所FXを合わせたFX業界規模は、12月末時点で総口座数が1,163万1,721口座(同6.9%増)と4年連続で過去最高を更新し、稼働口座数も85万9,983口座(同3.5%増)となった。
両市場合算の口座稼働率は7.4%と前年同期の7.6%から0.2ポイント減少した。
合計設定口座数は2020年12月に初めて1,000万件の大台を突破し、その後も増加傾向を維持し2022年12月末にも過去最高を記録した。なお、店頭FXと取引所FXの合計稼働数が過去最高となったのは、コロナ禍で円相場が乱高下した2020年1―3月期の89万7,813口座である。2022年は113円台から151円台まで米ドル高/円安が進行し、年末にかけて130円台まで反転する大きな動きを見せたが、すべての四半期で2020年1―3月期を下回った。
取引業者数の増減をみると、第3Qに出来高実績のあった店頭業者(報告ベース)は49社で前年同期比で横ばいに推移した。直近6年間は50社前後で推移しており新規参入も撤退もほぼないものの、2008年度の最多118社と比較すると半分以下にまで落ち込んでいる。
取引所FXについては第3Qに出来高実績のあった取引業者が19社で、前年同期の21社から2社減少した。
FX証拠金残高2兆2,805億円、取引額倍増で初の1京円超え
2022年末時点での受入証拠金残高をみると、店頭FXが1兆8,173億円(前年同期比10.0%増)と金額ベースで1,649億円増加し、取引所FX「くりっく365」も4,631億円(同16.9%増)と668億円増加した。この結果合計で2兆2,805億円(同11.3%増)と増加に転じた(裏面表2参照)。FX証拠金額は年度末(3月末)ベースでみると、2010年度以降7年連続で過去最高記録を更新した後、一旦減少に転じてから大幅に盛り返した。2022年は7―9月期(第2Q)に2兆3,559億円に達し四半期ベースの過去最高を更新したが、次の四半期(第3Q)で750億円ほど減少した。
2022年通年(2022年1月~12月)における店頭FXの総取引金額(円ベース)は1京2,172兆7,651億円(前年比100.6%増)と、金額ベースで倍増し初めて1京円を突破した。取引所FXの総取引金額も42兆2,714億円(同69.7%増)と17兆3,554億円増加した。この結果、店頭FX・取引所FXの合計取引金額は1京2,205兆2,537億円(同100.3%増)の大幅増となった。
店頭FXにおける通貨ペアごとの取引金額では、米ドル/円が9,160兆3,026億円と最大で、取引シェアでは全体の4分の3に当たる75.2%を占めた。なおドル/円におけるこれまでの取引最高額は2021年の4,036兆2,015億円だったが、今回それを倍以上上回り初めて9,000兆円台に乗せた。
2番目は7年連続でポンド/円が入った。取引金額は881兆5,862億円と金額ベースでは31.7%増加(金額ベースでは約212兆円)したものの、取引シェア7.2%と3.8ポイント低下した。
以下、豪ドル/円640兆3,636億円(前年比55.3%増、取引シェア5.2%)、ユーロ/円556兆7,458億円(同124.7%増、同3.7%)、ユーロ/米ドル453兆5,363億円(同57.4%増、同3.7%)と続いている。
米ドル/円に取引が集中したため、他通貨ペアは取引金額が大幅に増えたものの取引シェアは低下した。こうした背景について外為どっとコム総研では、米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な利上げと、日銀の頑なな金融緩和維持という比較的わかりやすい金融政策の対比でドル高円安が進行したことで、個人投資家がドル/円を手掛けやすかったと分析している。
新規口座開設・取引ともに40代が最多、性別は男75%
外為総研が外為どっとコムを通じ毎月FX投資家向けに実施しているアンケート調査(2022年1月~12月)によると、期間中にFX取引を行った年代は40代が32.4%と最多だった。次いで50代25.0%、30代19.4%、60代10.0%と続いた。全体的に30代以下の若年層世代の割合が減った一方、ミドルエイジ層が増えた結果となり、「ミセスワタナベ」と呼ばれた世代の参加者がFX取引の拡大に寄与したとみることができそうだ。性別では男性が75%を占めた。
新規口座開設者の年代別割合では、40代が最多で25.2%、次いで30代の28.6%、20代が18.9%、50代が16.9%、60代が6.4%と続いた。これは約20年前の「円キャリー取引」の隆盛時に取引した層が、今回の円安進行を予見し再度取引開始を決め口座開設に臨んだものとみられる。
2022年は高校の教育課程において金融教育が必修化(ただし投資、株、資産運用は含まれず)された影響か、10代の口座開設者割合もわずかに増加した。
なおアンケート集計結果によるFX個人投資家の平均的人物像について、①40代、②男性がメイン、③1回の取引数量は30~40Lot(1Lot=1,000通貨)、④レバレッジは4倍程度、⑤リスク管理、ポートフォリオマネジメントへの意識が高い―と分析している。続けて取引通貨の選別については、⑥スワップポイントを考慮、⑦取引通貨国の政情などを考慮、⑧相場急変時への対応が思うようにいかず損失を計上、⑨リスクとリターンの定量的分析や、それらに基づく資金マネジメントや投資戦略に改善の余地あり―とし、FXへの意識は、ハイリスク・ハイリターンと捉えられがちなFX取引の良い面を引き出しミドルリスク・ミドルリターンの投資先とするべく取り組み姿勢が浮かび上がったと結論付けた。
(Futures Tribune 2023年4月28日発行・第3212号掲載)
リンク
©2022 Keizai Express Corp.