電力先物本上場1年、東商取・石崎隆社長インタビュー(下)
エネルギーと排出権取引の融合、将来性高まる
2023-04-12
<東京商品取引所 石崎隆社長>
東京商品取引所(TOCOM)が原油先物市場を試験上場したのは2001年9月10日だった。翌日アメリカ同時多発テロ事件が発生し、以後しばらく原油価格は乱高下を繰り返し否応なく原油先物価格に注目が集まった。2004年の本上場後もTOCOMの原油先物は証券会社が発行する指標連動証券(ETN)のリスクヘッジに活用されるなど出来高は増加し、エネルギー市場の看板商品となっている。今回は前回に続いて石崎隆社長に、石油市場の現状と、エネルギーを語る上で切り離せない排出権市場の将来性などを聞いた(上下2回に分けて掲載)。
記者: 石油市場のガソリンと灯油は出来高が激減し、ほぼゼロになった。
石崎: ガソリンと灯油は、政府から「燃料油価格激変緩和対策事業」の補助金が2022年1月から出ている。これにより国民負担も減っているわけだが、この制度がいつまで続くか現時点ではわからず、相場観の形成が極めて困難になっていることが出来高激減の原因だ。したがって、補助金制度が終わったのち、事業者が再び先物市場に参入しやすいよう、コミュニケーションは継続している。このほか、状況は電気に似ているが、公共交通機関など多消費型産業に属する事業者といったエンドユーザーを新たに取り込みたい。これだけ価格が高くなり、補助金まで出ているということは、リスクヘッジのニーズがかなり上がっていることになる。補助金制度が終わったら、先物市場でリスクヘッジしていくことが重要視されると思う。
※[単語:燃料油価格激変緩和対策事業]
コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」(令和4年4月26日原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議にて取りまとめ)に基づき実施する施策であり、原油価格高騰が、コロナ禍からの経済回復の重荷になる事態を防ぐため及び国際情勢の緊迫化による国民生活や経済活動への影響を最小化するための激変緩和措置として、燃料油の卸売価格の抑制のための手当を行うことで、小売価格の急騰を抑制することにより、消費者の負担を低減することを目的としている。
記者: ガソリンも灯油も補助金制度は同じなのか。
石崎: 補助金は元売りのところに出ているので、石油製品全般、つまりガソリンにも灯油にも補助が出ているのと一緒である。この制度は9月までは続くようだが、その後継続するか否かは明らかにされていない。この補助金によって国内のガソリン価格は1リットル当たり160円ほどで抑えられているわけで、もし補助金が出ていなければ、ガソリンは200円を超えているだろう。
記者: 原油の出来高を支えているものは。
石崎: TOCOMの原油先物については、証券会社が発行する指標連動証券(ETN)のリスクヘッジに先物を使うというのが主で、取引の6~7割がリスクヘッジで買い建玉を立てる。そこに内外のトレーダーが売り方で入ってきているという図式が基本であるが、つまり原油先物に関しては補助金の影響はない。ただ、ドバイ原油もコロナ禍においてはWTI原油がマイナスになるなど、価格が非常に下がった。結果、あれだけ値段が下がったので今後は上がるのではという先高感が出ており、ETNが爆発的に売れたことで2020年は原油の出来高が過去最高だった。だが段々と原油価格が上昇してくると、先高感がなくなるので原油のETNが売れなくなってきた。むしろETNを仕切ろうという動きが出てくるので、これが出来高の減少に直結している。ETNに関連したヘッジ取引を行うのは月間のうち数日間だが、その分取引は集中する。これがTOCOMドバイ原油先物の構造だ。今後は新たな参加者を増やすべく、働きかけていきたい。
記者: 今TOCOMに上場している石油、電力、LNGの他、考えられるエネルギー商品は何か。
石崎: エネルギーと密接に関連するという意味では、経産省からの委託事業として東京証券取引所が行ったカーボンニュートラルのための排出量取引プラットフォーム「カーボンクレジット」だ。経産省としては、今後カーボンニュートラルを実現させるための取り組みである「GXリーグ」を使い、さらにGXリーグについての排出権取引市場の開設も計画している。こうした排出権取引だが、その先には、海外の先行事例をみても、排出権の先物取引が入ってくる可能性は大いにあると期待している。そうするとエネルギーと環境がつながり、一体的に取引可能になるという最も望ましい方向性に進む。ヨーロッパではすでに排出権取引はかなり活発に行われており、主役の市場参加者はエネルギー企業だ。
記者: TOCOMも20年ほど前に排出権先物を検討していた。排出権に関して、20年前と状況はどう変わったか。
石崎: 「2030年までに26%削減」だった排出量の削減目標を、菅前内閣の時にかなり意欲的に「2030年までに46%削減」とコミットした。市場を作ったり、補助金で後押ししたり、対策を抜本的に強化しなければならない中で、排出権取引が重要な手段として位置づけられ、この数年で急速に話が進んだ。当時排出権の調査を行った担当者は、今も東証に在職中で、当時の調査報告書も当然残っている。20年経ってようやく動き出した感はあるが、今後5~10年ほどはエネルギーと排出権をマージさせるという流れになってくるだろう。ただしこれこそ規制や制度と密接に関わってくるもので、政府側の政策に合わせて市場を作っていくことが重要になるだろう。
(Futures Tribune 2023年4月11日発行・第3208号掲載)