電力先物本上場1年、東商取・石崎隆社長インタビュー(上)
電力先物参加者156社、指標価格として存在感増す
2023-04-05
<東京商品取引所 石崎隆社長>
東京商品取引所(TOCOM)が電力先物を本上場および液化天然ガス(LNG)先物を試験上場してから1年が経過した。本上場後1年間(22年4月~23年3月)の出来高をみると、東エリアベースロードが1万3,901枚(前年度比48.0%増)、東エリア日中ロードが4,591枚(同105.0%増)、西エリアベースロードが4,825枚(同37.0%増)、西エリア日中ロードが3,411枚(同90.8%増)と、いずれも年度合計で過去最高を更新している。一方のLNGは年間でわずか4枚と振るわなかった。今回、石崎隆社長に電力やLNGを含む、エネルギー市場の現状などを聞いてみた(上下2回に分けて掲載)。
記者: 電力先物取引の本上場から1年が経過したが、出来高は徐々にではあるが増えている。
石崎社長(以下敬称略) 参加者も増えて今156社となった。2021年1月に日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格が高騰し、ヘッジ目的で多くの新電力が取引に参加するようになった。その後2022年4月の本上場を契機に、大手電力会社の7割程度が電力先物に参入してくるなど好循環につながっている。試験上場時から遡ると市場開設から3年ほど経過するが、本上場後は取引の中身についても高度化し、周波数が異なる東西地域のスプレッド、組み合わせによるオフピーク時間帯のヘッジなどにも利用されている。
記者: そのJEPXと今年1月にMOUを締結したが、何のためか。またなぜ今なのか。
石崎 JEPXとはどのような形で現物と先物の連携が可能か協議中で、電力先物の参加者からは両市場で証拠金を含めた資金利用を効率化してほしい、現物・先物を一体的に市場管理・運営してほしいといった要望を受けている。これらを踏まえ、どのような連携をしていけるかを議論するためのMOUだ。さらにTOCOMの電力先物も出来高が増えてきたので、現物と先物の連携が非常に重要になっている。参加者が150社以上になると、さすがにJEPXの参加者との重複がかなり出てきているので、両市場間の協議の必要性が今、ますます高まってきたためだ。
記者: 試験上場と本上場では、業界の見方も変わってくるか。
石崎 報道で知る限りではあるが、電力・ガス取引監視等委員会における大手電力会社の値上げ議論で、電力先物価格の利用についてポジティブに検討されていると聞く。これも電力先物が本上場に移行したことが要因だろう。公設の取引所が公正で透明な価格形成をしているとの認識で、電力業界に一定の評価をされたと考えているので、社会的な役割が高くなってきていると感じている。
記者: セミナー以外の、電力先物啓蒙に向けた取り組みはどうか。
石崎 国内向けには電力先物スクールを展開しており、要望があれば電力会社各社にオーダーメイドで先物取引の基礎から研修するなどの取り組みを実践している。これにより新電力がだいぶ入ってきた。もうひとつ、海外事業者への啓蒙で昨年11月にシンガポールへ出張し、大手エネルギー企業や大手金融機関と面談し、だいぶ関心を持ってもらえたと思うので、海外事業者の参入も働きかけていきたい。海外の方がエネルギートレードに習熟している。
記者: エネルギーでいえば電力先物の本上場と同時に始めた液化天然ガス(LNG)先物は、なかなか出来高が上がってこないが、商品設計のテコ入れなどについての考えは。
石崎 LNGも昨年末の時点で関連会社を含めると総合商社はすべて参加が決まっていて、昨年12月頃から大手需要家の注文も少量ではあるが出始めている。ただ、残念ながらまだ約定には至っていない。それでも新電力でLNG先物に参加する企業が出てくる見通しで、実際ELX社が電力会社としては初めてLNGに参加してきた。徐々に関心が広がっているLNG先物だが、今後取り組むべき課題は立会外取引の促進で、海外のLNG先物を見ると取引全体の8割ほどが立会外で行われる。TOCOMでは立会外取引の仲介をやっているインターディーラー・ブローカー(IDB)の市場参入をサポートしているが、IDBと連携して立会外取引の促進ツールを提供できるよう準備を進めている。本来の狙いは電力を売ってLNGを買うというスプレッド取引で、そうした取り組みが重要であるが、そういった意味では(JSCCが秋に導入する)VaR証拠金、あれは電気とLNGの連関性があると、証拠金が軽減される可能性が高くなるので、事業資金の効率化により使い勝手を高めていくといった取り組みをやっている。
※[単語:VaR証拠金]
VaRはValue at Risk(予想最大損失額)の略で、もともと金融機関が保有している資産のリスク評価を目的とし考案された。日本証券クリアリング機構(JSCC)では11月6日から、証拠金額の計算を現状のSPAN方式からVaR方式に移行する予定。
記者: LNGの試験上場期間は3年間だが。
石崎 2025年4月までの3年間だ。昨年はウクライナ侵攻の後、証拠金が高くなり、一時期は1枚当たり200万円ほどまで上がってしまったが、ようやく30万円台まで下がってきたので、今年が勝負の年だと思っている。力を入れて活性化に取り組みたい。
記者: 主務省である経産省との連携はどうなっているか。
石崎 これから大手電力会社も市場連動メニューという、固定料金ではなく市場価格に連動して電気料金を変動させる仕組みを中心に、特に産業向けに関しては対企業でそうした契約に変えつつある。そうすると供給側の新電力だけではなく、需要家の方も先物取引でリスクヘッジをしたいというニーズが出てくるだろう。需要家への働きかけは経産省と連携してやっていきたい。
(下へ続く)
(Futures Tribune 2023年4月4日発行・第3207号掲載)